目次


【公務員の人権】

【政治活動の自由・自衛隊】

 

・最判平成7年7月6日 陸上自衛隊三二普通科連隊等(懲戒免職)事件

要旨

自衛官が、沖縄返還協定紛砕等を掲げて開催された政治的集会において、その制服や官職を利用してそれによる宣伝効果をねらい、不特定多数の者に対して要求書及び声明文を読み上げて、一方的かつ過激な表現をもって国の政策を公然と批判し、これに従わない態度を明らかにするとともに、自衛隊をひぼう中傷したなど判示の事実関係の下においては、右行為を懲戒処分の対象とすることは、憲法二一条に違反するものとはいえない。

 

判旨

 1 憲法二一条の保障する表現の自由は、民主主義社会における重要な基本的人権の一つとして特に尊重されなければならないものであり、これをみだりに制限することは許されないが、表現の自由といえども国民全体の共同の利益を擁護するため必要かつ合理的な制限を受けることは、憲法の許容するところであるというべきである。そして、行政の中立かつ適正な運営が確保され、これに対する国民の信頼が維持されることは、憲法の要請にかなうものであり、国民全体の共同の利益にほかならないものというべきところ、自衛隊の任務(法三条)及び組織の特性にかんがみると、隊員相互の信頼関係を保持し、厳正な規律の維持を図ることは、自衛隊の任務を適正に遂行するために必要不可欠であり、それによって、国民全体の共同の利益が確保されることになるというべきである。したがって、このような国民全体の利益を守るために、隊員の表現の自由に対して必要かつ合理的な制限を加えることは、憲法二一条の許容するところであるということができる。以上は、当審大法廷判決(最高裁昭和四四年(あ)第一五〇一号同四九年一一月六日大法廷判決・刑集二八巻九号三九三頁、最高裁昭和六一年(行ツ)第一一号平成四年七月一日大法廷判決・民集四六巻五号四三七頁)の趣旨に徴して明らかである。

 2 原審の適法に確定した事実関係によれば、上告人らが昭和四七年四月二七日に防衛庁正門付近において行った行為及び同月二八日にa公園で開催された「四・二八沖縄返還協定粉砕、自衛隊沖縄派兵阻止、日帝の釣魚台略奪阻止、入管二法粉砕中央総決起集会」において行った行為は、自衛官の制服や官職を利用し、それによる宣伝効果を狙ったものであるとの評価を免れない上、上告人らが不特定多数の者に対して読み上げた要求書及び声明の内容並びにその演説における上告人らの主張は、議会制民主主義の政治過程を経て決定された国の政策につき、「いままさに日本帝国主義が、再びアジア人民への圧迫と殺りくに乗り出さんとしている」「われわれは、もはやこの帝国主義支配者どもの横暴と圧政に、絶対に耐えることはできない」「帝国主義佐藤政府は、われらを侵略と人民弾圧のせん兵とせんがために、四次防と沖縄派兵を必死になって強行しようとしている」などの一方的かつ過激な表現をもって公然と批判するとともに、右政策決定を前提とする上司の命令に服しようとしない態度を明らかにし、あるいは、「自衛隊兵士は、兵営監獄の中で抑圧され、差別され、あらゆる屈従を強いられてきた」などとして自衛隊をひぼう中傷するものであるということができる。自衛官が、その制服や官職を利用し、それによる宣伝効果を狙って、国の政策を公然と批判し、これに従わない態度を明らかにするようなことは、本来政治的中立を保ちつつ一体となって国民全体に奉仕すべき責務を負う自衛隊の内部に深刻な政治的対立を醸成し、そのため職務の能率的で安定した運営が阻害され、ひいては議会制民主主義の政治過程を経て決定された国の政策の遂行にも重大な支障を来すおそれがあるものというべきである。しかも、前記のような表現をもって隊員が自衛隊を公然とひぼう中傷することは、隊員相互の信頼関係を破壊し、自衛隊の規律を乱すものといわざるを得ない。右の弊害を防止するためにこれを懲戒処分の対象とするときは、上告人らの表現の自由が一定の制約を受けることにはなるが、それは、隊員の身分を保有する限りにおいて、その職務を適正に遂行するために課せられた制約にすぎず、右の弊害の重大さと比較すれば、利益の均衡を失するものとはいえない。

 そうすると、上告人らの右各行為を懲戒処分の対象として、その表現の自由を制約することは、前記のような国民全体の利益を守るために必要かつ合理的な措置であるということができ、右制約が憲法二一条に違反するものといえないことは、前記各大法廷判決の趣旨に徴して明らかである。

 

 

【非管理・現業公務員】

【最判昭和55年12月23日 全逓プラカード事件】

要旨

郵便外務を職務とする一般職の国家公務員が、メーデーの集団示威行進に際し約三〇分間にわたり、「アメリカのベトナム侵略に加担する佐藤内閣打倒」と記載された横断幕を掲げて行進する行為は、特定の内閣に反対する政治的目的を有する文書を掲示したものとして人事院規則一四‐七第五項四号、第六項一三号に該当する。

 

判旨

法一〇二条一項、規則五項四号、六項一三号の規定の違背を理由として法八二条の規定により懲戒処分を行うことが憲法二一条に違反するものでないことは、当裁判所の判例(最高裁昭和四四年(あ)第一五〇一号同四九年一一月六日大法廷判決・刑集二八巻九号三九三頁)の趣旨に徴して明らかである。

・・・

そこで、進んで、本訴請求の当否について判断するに、被上告人はメーデーにお

ける集団示威行進に際し約三〇分間にわたり、「アメリカのベトナム侵略に加担す

る佐藤内閣打倒」と記載された横断幕を掲げて行進したというのであるから、被上

告人の右行為は特定の内閣に反対する政治的目的を有する文書を掲示したものとし

て規則五項四号、六項一三号に該当し法一〇二条一項に違反するものと解するのが

相当である。

 

 

【旭川地裁昭和43年3月25日・猿払事件第一審判決】

要旨

1 機械的労務の提供をするにとどまる現業公務員が勤務時間外に、国の施設を利用することなく、かつ職務を利用し公正を害する意図なしに行った人事院規則14―7第6項の行為で労働組合活動の一環として行われた行為に対し、国家公務員法110条1項19号(同法102条1項・人事院規則14―7違反の罪)が適用されるときは、これが適用される限度において同号は憲法21条・31条に違反する。

2 非管理職である現業公務員で、その職務内容が機械的労務の提供に止まる者が、勤務時間外に国の施設を利用することなく、かつ職務を利用しもしくはその公正を害する意図なしに行った人事院規則14―7第6項13号の行為で、かつ労働組合活動の一環として行われたと認められる所為に刑事罰を加えることをその適用範囲内に予定している国家公務員法110条1項19号は、このような行為に適用される限度において、行為に対する制裁としては、合理的にして最少限度の域を超えたものと認めざるをえないので、右公務員の所為に、国家公務員法110条1項19号が適用される限度において、同号は、憲法21条・31条に違反する。

3.非管理職である現業公務員であってその職務内容が機械的労務の提供にとどまるものが、勤務時間外に、国の施設を利用することなく、かつ職務を利用せず、またはその公正を害する意図なくして行った人事院規則6項13号の行為で、労働組合活動の一環として行われたと認められるものに刑罰を科することを定める国家公務員法110条1項19号は、このような行為に適用される限度において、行為に対する制載としては合理的にして必要最小限の域を超え、憲法21条、31条に違反する。