第3章 国民の権利及び義務 外国人の人権(2)

  目次

【法の下の平等】

 

・最判平成4年4月28日 台湾人元日本兵戦死傷補償請求事件

要旨

戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項および恩給法9条1項3号のもとで、第二次大戦下において戦死傷し、日本国と中華民国との間の平和条約の発効により日本国籍を喪失した台湾人およびその遺族らが右各法による給付を受けることができないことは、合理的な根拠があり、憲法14条に違反しない。

 

判旨

 上告人らが主張するような戦争犠牲ないし戦争損害は、国の存亡に係わる非常事態の下では、国民の等しく受忍しなければならなかったところであって、これに対する補償は憲法の全く予想しないところというべきであり、右のような戦争犠牲ないし戦争損害に対しては単に政策的見地からの配慮が考えられるにすぎないものと解すべきことは、当裁判所の判例の趣旨に徴し明らかである(昭和四〇年(オ)第四一七号同四三年一一月二七日大法廷判決・民集二二巻一二号二八〇八頁参照)。したがって、憲法二九条三項等の規定を適用してその補償を求める上告人らの主張は、右規定の意義・性質等について判断するまでもなく、その前提を欠くに帰するというべきであって、所論の点に関する原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、採用することができない。

 論旨は、昭和二七年四月三〇日に施行された戦傷病者戦没者遺族等援護法(同年法律第一二七号。以下「援護法」という。)により、軍人軍属等であった者又はこれらの者の遺族に対しては障害年金・遺族年金等が支給され、また、昭和二八年八月一日施行の恩給法の一部を改正する法律(同年法律第一五五号。以下「恩給法改正法」という。)により、旧軍人等又はこれらの者の遺族に対する恩給の支給が復活したところ、援護法附則二項は、戸籍法の適用を受けない者については、当分の間、この法律を適用しない旨を定め、また、恩給法九条一項三号は、日本国籍を失ったときは年金たる恩給を受ける権利は消滅するものと定めており(以下、これらを「本件国籍条項」という。)、台湾住民である軍人軍属に対して本件国籍条項の適用を除外していないことから、台湾住民である上告人らは援護法又は恩給法による給付を受けることができないこととされているが、これはもと日本国籍を有していた台湾住民である軍人軍属を不当に差別するもので憲法一四条に違反する、というのである。

 そこで検討するのに、憲法一四条一項は法の下の平等を定めているが、右規定は合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り、何ら右規定に違反するものでないことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである(昭和三七年(あ)第九二七号同三九年一一月一八日大法廷判決・刑集一八巻九号五七九頁、同昭和三七年(オ)第一四七二号同三九年五月二七日大法廷判決・民集一八巻四号六七六頁等参照)。ところで、我が国は、昭和二七年四月二八日に発効した日本国との平和条約により、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄し(二条)、この地域に関し、日本国及びその国民に対する右地域の施政を行っている当局及び住民の請求権の処理は、日本国と右当局との間の特別取極の主題とするものとされ(四条)、また、我が国は、右条約の署名国でない国と、右条約に定めるところと同一の又は実質的に同一の条件で二国間の平和条約を締結することが予定された(二六条)。そして、我が国は、中華民国との間で日本国と中華民国との間の平和条約(以下「日華平和条約」という。)を締結し、同条約は昭和二七年八月五日に効力を生じたところ、同条約三条は、日本国及びその国民に対する中華民国の当局及び台湾住民の請求権の処理は、日本国政府と中華民国政府との間の特別取極の主題とする旨を定めている。また、台湾住民は、同条約により、日本の国籍を喪失したものと解される(最高裁昭和三三年(あ)第二一〇九号同三七年一二月五日大法廷判決・刑集一六巻一二号一六六一頁参照)。その間、昭和二七年四月三〇日に援護法が制定され、その附則二項は、戸籍法の適用を受けない者については、当分の間、援護法を適用しない旨を規定したが、その趣旨は、同法上、援護対象者は日本国籍を有する者に限定され、日本国籍の喪失をもって権利消滅事由と定められているところ、同法制定当時、台湾住民等の国籍の帰属が分明でなかったことから、これらの人々に同法の適用がないことを明らかにすることにあったものと解される。その後、昭和二八年八月一日施行の恩給法改正法により、旧軍人等及びこれらの者の遺族に対する恩給の支給が復活したが、その時点においては、台湾住民は日本の国籍を喪失していたから、恩給法九条一項三号の規定の趣旨に照らし、恩給の受給資格を有しないこととなったものである。以上の経緯に照らせば、台湾住民である軍人軍属が援護法及び恩給法の適用から除外されたのは、台湾住民の請求権の処理は日本国との平和条約及び日華平和条約により日本国政府と中華民国政府との特別取極の主題とされたことから、台湾住民である軍人軍属に対する補償問題もまた両国政府の外交交渉によって解決されることが予定されたことに基づくものと解されるのであり、そのことには十分な合理的根拠があるものというべきである。したがって、本件国籍条項により、日本の国籍を有する軍人軍属と台湾住民である軍人軍属との間に差別が生じているとしても、それは右のような根拠に基づくものである以上、本件国籍条項は、憲法一四条に関する前記大法廷判例の趣旨に徴して同条に違反するものとはいえない。

 

 

・最判平成13年4月5日 在日韓国人元日本軍属障害年金訴訟

要旨

財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第27号)の締結後,いわゆる在日韓国人の軍人軍属に対して援護の措置を講ずることなく戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項を存置していたことは,憲法14条1項に違反するということはできない。

 

判旨

 1 戦傷病者戦没者遺族等援護法(以下「援護法」という。)は,軍人軍属等の公務上の負傷若しくは疾病又は死亡に関し,国家補償の精神に基づき,軍人軍属等であった者又はこれらの者の遺族を援護することを目的として制定されたものであり(1条),軍人軍属であった者の在職期間内における公務上の負傷又は疾病に対しては,所定の要件を満たす限りにおいて障害年金等を支給する旨規定しているが,軍人軍属であった者であって,7条1項に規定する程度の障害の状態になった日において日本の国籍を有しないか,又はその日以後昭和27年3月31日以前に日本の国籍を失ったものには障害年金等を支給しない旨規定し(11条2号),また,障害年金を受ける権利を有する者が日本の国籍を失ったときは,当該障害年金を受ける権利は消滅する旨規定し(14条1項2号),さらに,「戸籍法(昭和22年法律第224号)の適用を受けない者については,当分の間,この法律を適用しない。」旨規定している(附則2項)

 2 憲法14条1項は,法の下の平等を定めているが,この規定は,合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって,各人に存する経済的,社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは,その区別が合理性を有する限り,何らこの規定に違反するものでないことは,当裁判所の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和37年(あ)第927号同39年11月18日大法廷判決・刑集18巻9号579頁,最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁等参照)。

 ところで,我が国は,昭和27年4月28日に発効した日本国との平和条約(以下「平和条約」という。)により,朝鮮の独立を承認して,済州島,巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利,権原及び請求権を放棄し(2条),これらの地域の施政を行っている当局及びそこの住民の日本国における財産並びに日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権(債権を含む。)の処理は,日本国とこれらの当局との間の特別取極の主題とするものとされた(4条)。そして,平和条約の発効により,それまで日本の国内法上で朝鮮人としての法的地位を有していた人すなわち朝鮮戸籍令の適用を受け朝鮮戸籍に登載されるべき地位にあった人は,朝鮮国籍を取得し,日本国籍を喪失したものと解される(最高裁昭和30年(オ)第890号同36年4月5日大法廷判決・民集15巻4号657頁,最高裁昭和38年(オ)第1343号同40年6月4日第二小法廷判決・民集19巻4号898頁参照)。平和条約発効直後の昭和27年4月30日に援護法が公布施行され,同月1日にさかのぼって適用されたが,前記のとおり,援護法上,援護対象者は日本国籍を有する者に限定され,日本国籍の喪失をもって権利消滅事由と定められるとともに,援護法附則2項が設けられた。その趣旨は,援護法制定当時,それまで日本の国内法上で朝鮮人及び台湾人としての法的地位を有していた人の国籍の帰属が分明でなかったことなどから,これらの人々に援護法の適用がないことを明らかにすることにあったものと解される。

 以上の経緯に照らせば,それまで日本の国内法上で朝鮮人としての法的地位を有していた軍人軍属が援護法の適用から除外されたのは,これらの人々の請求権の処理は平和条約により日本国政府と朝鮮の施政当局との特別取極の主題とされたことから,上記軍人軍属に対する補償問題もまた両政府間の外交交渉によって解決されることが予定されたことに基づくものと解されるのであり,そのことには十分な合理的根拠があるものというべきである。したがって,援護法附則2項により,日本の国籍を有する軍人軍属と平和条約の発効により日本の国籍を喪失し朝鮮国籍を取得することとなった軍人軍属との間に区別が生じたとしても,それは以上のような根拠に基づくものである以上,援護法附則2項は,憲法14条1項に関する前記各大法廷判決の趣旨に徴して同項に違反するものとはいえない(最高裁昭和60年(オ)第1427号平成4年4月28日第三小法廷判決・裁判集民事164号295頁参照)。

 3 日本国と大韓民国との間において,平和条約に基づく特別取極に相当するものとして,昭和40年6月22日,財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第27号。以下「日韓請求権協定」という。)が締結された。そして,その2条1項において,両締約国及びその国民の財産,権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が,平和条約4条(a)に規定されたものを含めて,完全かつ最終的に解決されたこととなることが確認された。また,日韓請求権協定2条3項において,同条2項の規定に従うことを条件として,一方の締約国及びその国民の財産,権利及び利益であってこの協定の署名の日に他方の締約国の管轄の下にあるものに対する措置並びに一方の締約国及びその国民の他方の締約国及びその国民に対するすべての請求権であって同日以前に生じた事由に基づくものに関しては,いかなる主張もすることができないものとする旨規定された。他方で,同条2項(a)において,この協定は,一方の締約国の国民で1947年8月15日からこの協定の署名の日までの間に他方の締約国に居住したことがあるものの財産,権利及び利益に影響を及ぼすものではない旨規定された。なお,財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定についての合意された議事録(以下「合意議事録」という。)には,日韓請求権協定2条に関し,「財産,権利及び利益」とは,法律上の根拠に基づき財産的価値を認められるすべての種類の実体的権利をいうことが了解された旨記載されている。日韓請求権協定の締結後,日本国政府は,同協定2条2項(a)に該当する在日韓国人の軍人軍属の補償請求については,これらの人々が援護法の適用から除外されている以上,法律上の根拠を有する実体的権利ではないから,同項にいう「財産,権利及び利益」には当たらず,同条3項により大韓民国政府の外交保護権は放棄されており,同協定により解決済みであるとの立場をとり,他方で,大韓民国政府は,在日韓国人戦傷者の補償請求権は日韓請求権協定の解決対象には含まれておらず,同協定2条2項(a)にいう「財産,権利及び利益」に該当するものと解釈しており,同項(a)に該当する在日韓国人の軍人軍属については,大韓民国の国内法による補償の対象から除外した。そのため,これらの在日韓国人の軍人軍属は,その公務上の負傷又は疾病等につき日本国からも大韓民国からも何らの補償もされないまま推移した。その結果として,日本人の軍人軍属と在日韓国人の軍人軍属との間に公務上の負傷又は疾病等に対する補償につき差別状態が生じていたことは否めない。上記のとおり援護法附則2項が援護法の制定当時においては十分な合理的根拠を有していたとしても,日韓請求権協定の締結後,上記のような差別状態が生じていたにもかかわらず,立法府が在日韓国人の軍人軍属に対して援護の措置を講ずることなく援護法附則2項を存置してきたことについては,そのことが憲法14条1項に違反しないか否かが更に検討されなければならない。

 ところで,軍人軍属等の公務上の負傷若しくは疾病又は死亡のような戦争犠牲ないし戦争損害に対する補償は,憲法の予想しないところというべきであり,その補償の要否及び在り方は,事柄の性質上,財政,経済,社会政策等の国政全般にわたった総合的政策判断を待って初めて決し得るものであって,これについては,国家財政,社会経済,戦争によって国民が被った被害の内容,程度等に関する資料を基礎とする立法府の裁量的判断にゆだねられたものと解される(最高裁昭和40年(オ)第417号同43年11月27日大法廷判決・民集22巻12号2808頁,最高裁昭和58年(オ)第1337号同62年6月26日第二小法廷判決・裁判集民事151号147頁,最高裁平成5年(オ)第1751号同9年3月13日第一小法廷判決・民集51巻3号1233頁参照)。また,以上のような日韓請求権協定の締結後の経過や国際情勢の推移等にかんがみると,援護法附則2項を廃止することをも含めて在日韓国人の軍人軍属に対して援護の措置を講ずることとするか否かは,大韓民国やその他の国々との間の高度な政治,外交上の問題でもあるということができ,その決定に当たっては,変動する国際情勢,国内の政治的又は社会的諸事情等をも踏まえた複雑かつ高度に政策的な考慮と判断が要求されるところといわなければならない。これらのことからすれば,日韓請求権協定の締結後,上告人らを含む在日韓国人の軍人軍属に対して援護の措置を講ずることなく援護法附則2項を存置したことは,いまだ上記のような複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立って行使されるべき立法府の裁量の範囲を著しく逸脱したものとまでいうことはできず,本件各処分当時において憲法14条1項に違反するに至っていたものとすることはできない。

 

 

・東京高裁平成14年1月23日

要旨

ゴルフクラブへの外国人の入会を制限する旨の理事会決議は民法九〇条に違反するものではないから同決議に基づいて在日韓国人のゴルフクラブへの入会を拒否したことが違法ではないとされた事例

 

私人である社団ないし団体には結社の自由が保障されているから、新たな構成員の加入条件は、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるものであって、結社の自由を制限してまでも相手方の平等の権利を保護しなければならないほどに、相手方の平等の権利に対して重大な侵害がされ、その侵害の態様、程度が憲法の規定の趣旨に照らして社会的に許容しうる限界を超えるといえるような極めて例外的な場合に限り、新たな構成員の加入を拒否する行為が民法90条により無効となり、民法709条の不法行為にあたるものというべきであるところ、私的な社団としてのゴルフクラブの構成員の加入を国籍によって制限することは、そのような例外的な場合に該当するものということはできない。