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外国人の人権(4-4)公務就任権

【・最大判平成17年1月26日 外国人公務員東京都管理職選考受験訴訟】

【裁判官泉徳治の反対意見】

 

1 被上告人は,昭和25年に岩手県で出生した特別永住者であり,日本の法律に従い昭和61年に看護婦免許,昭和63年に保健婦免許をそれぞれ受け,同年4月に東京都日野保健所の保健婦として採用され,平成5年4月から東京都八王子保健所西保健相談所に4級職主任の保健婦として勤務していた(なお,記録によると,被上告人の母は,日本人であったが,昭和10年に日本において朝鮮人と婚姻し,内地戸籍から除籍されて朝鮮戸籍に入籍し,日本国との平和条約の発効に伴い日本国籍を喪失した。また,被上告人は,日本において,義務教育を受け,高等学校,専門学校を卒業している。)。

2 被上告人は,東京都人事委員会により,日本国籍を有しないことを理由として,平成6年度及び平成7年度の管理職選考(以下「本件管理職選考」という。)の受験を拒否された。管理職選考の受験資格として日本国籍を有することが必要であることを定めた東京都条例や東京都人事委員会規則はない。東京都人事委員会は,平成6年度管理職選考実施要綱では,日本国籍の要否について触れていなかったが,平成7年度管理職選考実施要綱で,初めて,受験資格としxて日本国籍を有することが必要であることを定めた。

3 国家は,国際慣習法上,外国人を自国内に受け入れる義務を負うものではなく,特別の条約がない限り,外国人を自国内に受け入れるかどうか,また,これを受け入れる場合にいかなる条件を付するかを,自由に決定することができるものとされている(最高裁昭和29年(あ)第3594号同32年6月19日大法廷判決・刑集11巻6号1663頁,最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)。国は,国家主権の一部として上記のような自由裁量権を有するのであり,地方公共団体にはかかる裁量権がないから,地方公共団体は,国が日本における在留を認めた外国人について,当該地方公共団体内における活動を自由に制限できるものではない。

4 そこで,まず,特別永住者が地方公務員(選挙で選ばれる職を除く。以下同じ。)となり得るか否かに関連して,国が法令においてどのような定めをしているかを見ることとする。

(1) 国は,日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法3条において,特別永住者に対し日本で永住することができる地位を与えている。特別永住者は,出入国管理及び難民認定法2条の2第1項の「他の法律に特別の規定がある場合」に該当する者として,同法の在留資格を有することなく日本で永住することができ,日本における就労活動その他の活動について同法による制限を受けない。そして,地方公務員法等の他の法律も,特別永住者が地方公務員となることを制限してはいない。

(2) 憲法3章の諸規定による基本的人権の保障は,権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き,我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶと解すべきである(最高裁昭和50年(行ツ)第120号同53年10月4日大法廷判決・民集32巻7号1223頁参照)。そして,憲法14条1項が保障する法の下の平等原則は,外国人にも及ぶ(最高裁昭和37年(あ)第927号同39年11月18日大法廷判決・刑集18巻9号579頁参照)。また,憲法22条1項が保障する職業選択の自由も,特別永住者に及ぶと解すべきである。

5 上記のように,国家主権を有する国が,法律で,特別永住者に対し永住権を与えつつ,特別永住者が地方公務員になることを制限しておらず,一方,憲法に規定する平等原則及び職業選択の自由が特別永住者にも及ぶことを考えれば,特別永住者は,地方公務員となることにつき,日本国民と平等に扱われるべきであるということが,一応肯定されるのである。

 6 そこで,次に,地方公共団体において,特別永住者が地方公務員となることを,一定の範囲で制限することが許されるかどうかを検討する。

 (1) 憲法14条1項は,絶対的な平等を保障したものではなく,合理的な理由なくして差別することを禁止する趣旨であって,各人の事実上の差異に相応して法的取扱いを区別することは,その区別が合理性を有する限り,何ら上記規定に違反するものではない(最高裁昭和55年(行ツ)第15号同60年3月27日大法廷判決・民集39巻2号247頁参照)。また,憲法22条1項は,「公共の福祉に反しない限り」という留保の下に職業選択の自由を認めたものであって,合理的理由が存すれば,特定の職業に就くことについて,一定の条件を満たした者に対してのみこれを認めるということも許される(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。

 (2) 憲法前文及び1条は,主権が国民に存することを宣言し,国政は国民の厳粛な信託によるものであって,その権威は国民に由来し,その権力は国民の代表者がこれを行使することを明らかにしている。国民は,この国民主権の下で,憲法15条1項により,公務員を選定し,及びこれを罷免することを,国民固有の権利として保障されているのである。そして,国民主権は,国家権力である立法権・行政権・司法権を包含する統治権の行使の主体が国民であること,すなわち,統治権を行使する主体が,統治権の行使の客体である国民と同じ自国民であること(これを便宜上「自己統治の原理」と呼ぶこととする。)を,その内容として含んでいる。地方公共団体における自治事務の処理・執行は,法律の定める範囲内で行われるものであるが,その範囲内において,上記の自己統治の原理が,自治事務の処理・執行についても及ぶ。そして,自己統治の原理は,憲法の定める国民主権から導かれるものであるから,地方公共団体が,自己統治の原理に従い自治事務を処理・執行するという目的のため,特別永住者が一定範囲の地方公務員となることを制限する場合には,正当な目的によるものということができ,その制限が目的達成のため必要かつ合理的な範囲にとどまる限り,上記制限の合憲性を肯定することができると解される。

 ただし,国が法律により特別永住者に対し永住権を認めるとともに,その活動を特に制限してはいないこと,地方公共団体は特別永住者の活動を自由に制限する権限を有しないこと,地方公共団体は法律の範囲内で自治事務を処理・執行する立場にあることを考慮すれば,地方公共団体が,自己統治の原理から特別永住者の就任を制限できるのは,自己統治の過程に密接に関係する職員,換言すれば,広範な公共政策の形成・執行・審査に直接関与し自己統治の核心に触れる機能を遂行する職員,及び警察官や消防職員のように住民に対し直接公権力を行使する職員への就任の制限に限られるというべきである。自己統治の過程に密接に関係する職員以外の職員への就任の制限を,自己統治の原理でもって合理化することはできない。

 (3) また,地方公共団体は,自治事務を適正に処理・執行するという目的のために,特別永住者が一定範囲の地方公務員となることを制限する必要があるというのであれば,当該地方公務員が自己統治の過程に密接に関係する職員でなくても,合理的な制限として許される場合もあり得ると考えられる。ただし,特別永住者は,本来,憲法が保障する法の下の平等原則及び職業選択の自由を享受するものであり,かつ,地方公務員となることを法律で特に制限されてはいないのである。そして,職業選択の自由は,単に経済活動の自由を意味するにとどまらず,職業を通じて自己の能力を発揮し,自己実現を図るという人格権的側面を有しているのである。

 その上,特別永住者は,その住所を有する地方公共団体の自治の担い手の一人である。すなわち,憲法8章の地方自治に関する規定は,法律の定めるところによりという限定は付しているものの,住民の日常生活に密接に関連する地方公共団体の事務は,国が関与することなく,当該地方公共団体において,その地方の住民の意思に基づいて処理するという地方自治の制度を定め,「住民」を地方自治の担い手として位置付けている。これを受けて,地方自治法10条は,「市町村の区域内に住所を有する者は,当該市町村及びこれを包括する都道府県の住民とする。住民は,法律の定めるところにより,その属する普通地方公共団体の役務の提供をひとしく受ける権利を有し,その負担を分任する義務を負う。」と規定し,「住民」が地方自治の運営の主体であることを定めている。そして,この住民には,日本国民だけでなく,日本国民でない者も含まれる。もっとも,同法は,地方公共団体の議会の議員及び長の選挙権・被選挙権(11条,18条,19条),条例制定改廃請求権(12条),事務監査請求権(12条),議会解散請求権(13条),議会の議員,長,副知事若しくは助役,出納長若しくは収入役,選挙管理委員若しくは監査委員又は公安委員会若しくは教育委員会の委員の解職請求権(13条)など,地方参政権の中核となる権利については,日本国民たる住民に限定しているが,原則的には,日本国民でない者をも含めた住民一般を地方自治運営の主体として位置付け,これに住民監査請求権(242条),住民訴訟提起権(242条の2)なども付与している。特別永住者は,上記のような制限はあるものの,当該地方公共団体の住民の一人として,その自治事務に参加する権利を有しているものということができる。当該地方公共団体の住民ということでは,特別永住者も,他の在留資格を持って在留する外国人住民も,変わるところがないといえるかも知れないが,当該地方公共団体との結び付きという点では,特別永住者の方がはるかに強いものを持っており,特別永住者が通常は生涯にわたり所属することとなる共同社会の中で自己実現の機会を求めたいとする意思は十分に尊重されるべく,特別永住者の権利を制限するについては,より厳格な合理性が要求される。

 以上のような,特別永住者の法的地位,職業選択の自由の人格権的側面,特別永住者の住民としての権利等を考慮すれば,自治事務を適正に処理・執行するという目的のために,特別永住者が自己統治の過程に密接に関係する職員以外の職員となることを制限する場合には,その制限に厳格な合理性が要求されるというべきである。換言すると,具体的に採用される制限の目的が自治事務の処理・執行の上で重要なものであり,かつ,この目的と手段たる当該制限との間に実質的な関連性が存することが要求され,その存在を地方公共団体の方で論証したときに限り,当該制限の合理性を肯定すべきである。

 7 以上の観点から,東京都人事委員会が特別永住者である被上告人に対し本件管理職選考の受験を拒否した行為が許容されるものかどうかを検討する。

 (1) 本件管理職選考は,「課長級の職」への第一次選考である。課長級の職には,自己統治の過程に密接に関係する職員が含まれていることは明らかで,自己統治の原理に従い自治事務を処理・執行するという目的の下に,特別永住者が上記職員となることを制限しても,それは合理的制限として許容される。 

 しかし,本件管理職選考は,知事,公営企業管理者,議会議長,代表監査委員,教育委員会,選挙管理委員会,海区漁業調整委員会又は人事委員会に任命権がある職員の課長級の職への第一次選考であって,選考対象の範囲が極めて広く,「課長級の職」がすべて自己統治の過程に密接に関係する職員であると当然にいうことはできない。

 上告人は,課長級の職は,事案の決定権限を有するか,事案の決定権限は有しないが事案の決定に参画することにより,すべて事案の決定過程に関与しているものであり,公の意思の形成に参画しているものである,と主張する。しかし,事案の決定あるいは公の意思の形成といっても,その内容・性質は各種・各様であって,地方公共団体の課長級の職員が行うこれらの行為のすべてが,広範な公共政策の形成・執行・審査に直接関与し自己統治の核心に触れる機能を遂行するものと評価することは困難である。

 もともと,課長級の職員も,地方公務員の一員として,政治的行為をすることを禁じられているとともに,その職務を遂行するに当たって,法令,条例,地方公共団体の規則及び地方公共団体の機関の定める規程に従い,かつ,上司の職務上の命令に忠実に従わなければならない義務を負っていることに留意すべきである(地方公務員法32条及び36条参照)。

 また,原審は,上告人の管理職の中には,計画の企画や専門分野の研究を行うなどのスタッフとしての職務を行い,事案の決定権限を有せず,事案の決定過程にかかわる蓋然性も少ない管理職も若干存在していることを指摘している。

 そして,上告人の東京都組織規程(昭和27年東京都規則第164号)によると,知事及び出納長の権限に属する事務を処理するための機関だけでも,8条で掲げる「本庁」の局・室・課のほか,31条及び別表3で掲げる「本庁行政機関」,34条及び別表4で掲げる「地方行政機関」(その一つである保健所だけでも8箇所存在する。)及び37条で掲げる「附属機関」があり,上告人は,多数の機関で広範な事務を処理している。

 さらに,上告人は,職員の給与に関する条例(昭和26年東京都条例第75号)5条所定の医療職給料表(三)が適用される保健師,助産師,看護師,准看護師の採用については,国籍要件を付していないが,初任給,昇格及び昇給等に関する規則(昭和48年東京都人事委員会規則第3号)3条及び別表第1チ「医療職給料表(三)級別標準職務表」は,7級の標準的な職務として本庁の課長の職務等,8級の標準的な職務として本庁の統括課長の職務等を掲げており,医療職給料表(三)の適用職員が課長級の職員となることを予定している。

 以上のような状況からすれば,課長級の職には,自己統治の過程に密接に関係する職員以外の職員が相当数含まれていることがうかがわれるのである。 そうすると,自己統治の原理に従い自治事務を処理・執行するという目的を達成する手段として,特別永住者に対し「課長級の職」への第一次選考である本件管理職選考の受験を拒否するということは,上記目的達成のための必要かつ合理的範囲を超えるもので,過度に広範な制限といわざるを得ず,その合理性を否定せざるを得ない。

 (2) 次に,上告人は,本件管理職選考に合格した者は候補者名簿に登載し,数年後に最終的な選考を経て管理職に任用するところ,最終的な選考に合格した者については,職種ごとの任用管理は行っておらず,他の職種の管理職に就かせることもあるとともに,まず出先課長に任用し,次に本庁副参事へ,更に本庁課長へと昇任させる等の任用を行っており,また,同一人を特定の職に退職まで在籍させるということは行っていないから,退職までの昇任過程において必然的に事案決定権限を有する職に就かせることになるので,特別永住者に対し本件管理職選考の受験そのものを拒否することが許される旨主張する。  事案決定権限を行使することがそのまま自己統治の過程に密接に関係することにならないことは,前述のとおりである。上告人の上記主張は,上告人の昇任管理ないし人事管理の下では,本件管理職選考に合格した者はいずれ自己統治の過程に密接に関係する職に就かせることになるから,この昇任管理ないし人事管理政策の遂行のため,特別永住者に対して本件管理職選考の受験そのものを拒否し,「課長級の職」の中で自己統治の過程に密接に関係する職員以外の職員となることも制限することが許されるべきであるとの主張を含むものと解して,その是非を検討することにする。かかる場合の制限が正当化されるためには,前述のとおり,具体的に採用される制限の目的(すなわち,上告人の昇任管理ないし人事管理政策を実施すること。)が自治事務を処理・執行する上において重要なものであり,かつ,この目的と手段たる当該制限(すなわち,特別永住者に対し本件管理職選考の受験を拒否し,「課長級の職」の中の自己統治の過程に密接に関係する職員以外の職員となることを制限すること。)との間に実質的な関連性が存することが必要である。 上告人の上記昇任管理ないし人事管理政策を実施するためという目的は,自治事務を適正に処理・執行する上において合理性を有するものであって,一応の正当性を肯定することができるが,特別永住者に対し法の下の平等取扱い及び職業選択の自由の面で不利益を与えることを正当化するほど,自治事務を処理・執行する上で重要性を有する目的とはいい難い。

 また,4級の職員が第一次選考である本件管理職選考に合格しても,直ちに課長級の職に就くわけではなく,更に選考を経て5級及び6級の職をそれぞれ数年間は経験しなければならないのであり,上告人が多数の機関を擁し,多数の課長級の職を設けていることを考えれば,特別永住者に本件管理職選考の受験を認め,将来において課長級の職に昇任させた上,自己統治の過程に密接に関係する職員以外の職員に任用しても,上告人の昇任管理ないし人事管理政策の実施にさほど支障が生ずるものとは考えられず,特別永住者に対し本件管理職選考の受験自体を拒否し,自己統治の過程に密接に関係する職員以外の職員になることを制限するという手段が,上告人の昇任管理ないし人事管理政策の実施という目的と実質的な関連性を有するとはいい難い。

 したがって,上記の制限をもって合理的なものということはできない。

 8 以上のとおり,特別永住者である被上告人に対する本件管理職選考の受験拒

否は,憲法が規定する法の下の平等及び職業選択の自由の原則に違反するものであ

ることを考えると,国家賠償法1条1項の過失の存在も,これを肯定することがで

きるものというべきである。

 9 したがって,以上と同旨の原審の判断は正当であり,本件上告は棄却すべき

ものと考える。