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【高松高裁平成2年2月19日】

要旨

校則に違反して原動機付自転車の運転免許を取得したことを理由にされた高等学校生徒に対する自宅謹慎の措置が違法でないとされた事例

 

判旨

4 本件校則は憲法一三条が保障する国民の幸福追及の自由を阻害する点で違法であるとの控訴人の主張について

 (一)憲法一三条が保障する国民の私性活における自由の一つとして、何人も原付免許取得をみだりに制限禁止されないというべきである。そして、高等学校の生徒は、一般国民としての人権享受の主体である点では、高校生でない一六才以上の同年輩の国民と同じであり、この観点だけからすると、高校生の原付免許取得の自由を全面的に承認すべきである。

 しかし、、高等学校程度の教育を受ける過程にある生徒に対する懲戒処分の一環として、生徒の原付免許取得の自由が制限禁止されても、その自由の制約と学校の設置目的との聞に、合理的な関連性があると認められる限り、この制約は憲法一三条に違反するものでないと解すべきである。けだし、高等学校における生徒の懲戒処分は、生徒の教育について直接に権限をもち責任を負う校長や教員が、学校教育の一環として行うのであり、処分の適切な結果を期待するためには、学校内の事情はもとより、生徒の家庭環境を含む学校外の教育事情についても、専門的な知識と経験を有する処分権者の広範な裁量に委ねるのが相当であると認められるからである。

 (二) 本件校則は本件学校の校長が学校の設置目的を達成するために制定したもの(内規)であること及び本件校則と学校の設置目的との間に合理的な関連性があることは後述のとおりである。

 (三)したがって、控訴人の右主張は採用することができない。

 5本件校則は法令相互間の効力の優劣関係上、優位な法律でみとめられている原付免許取得の自由を侵害する点で違法であるとの控訴人の主張について

 しかし、道路交通法規が一定の年齢以上の者に運転免許の取得を許容している趣旨は、道路における交通の円滑性と安全性を保持するためであるのに対し、本件校則が右法定年齢以上の生徒につき免許取得を制限禁止しているのは、学校の設置目的すなわち生徒の教育のためであって、両者の各規定は、その規制の趣旨目的を異にするものであることが明らかである。

 したがって、生徒の教育を目的とする本件校則の規制が道路交通法令違反して違法であるという問題は生じないから、控訴人の右主張は採用できない。

 

 

【東京高裁平成4年3月19日】

要旨

判示事項

運転免許の取得及びバイク乗車を禁止する校則に違反したことを理由としてされた私立高校生に対する退学処分が違法であるとされた事例

裁判要旨

運転免許の取得及びバイク乗車を禁止する校則に反して、私立高校生が運転免許を取得したうえ自動二輪車を購入して退転したことなどを理由に退学処分にした場合において、生徒側が学校の退学勧告を拒否し、退学処分を求める旨の書面を提出するなとの事情の下に右退学処分がされたものであるとしても、学校側はその処分の過程において生徒の今後の改善の可能性を確かめるなど他の懲戒処分をする余地がないかどうかについて配慮した形跡がなく、教育的配慮供に欠けるところがあったこと、生徒はバイク問題以外には普段の学校生活上で問題のある者とはされておらず、適切な指導監督により今後の違反行為を絶つ二とが期待できなかったとはいえないことなど判示の事情があるときは、右退学処分は、処分権者に認められた合理的裁量の範囲を超え、違法である。

 

 

判旨

 四 本件退学処分の裁量権の逸脱の有無

 1 学校が生徒に対して行う懲戒処分が処分権者の合理的裁量に任されていることは、原判決の説示(原判決三八枚目表二行目から同三九枚目裏二行目)するとおりであり、また、懲戒処分が教育的措置であることに鑑み、処分を行うに当たって教育上必要な配慮をしなければならないことは、学校教育法施行規則一三条一項の規定するところである。

 2 前記認定のとおり、第一審原告は、本件高校において運転免許の取得及びバイク乗車が校則により禁止されていることを十分承知しながら、昭和六一年一二月に自動二輪車の運転免許を取得したうえ、昭和六二年四月に自動二輪車を購入してこれを運転していたが、同年一二月に免許証をD教諭に提出した際、同教諭から、バイクに乗らないように注意されたにもかかわらず、昭和六三年一月上旬から中旬にかけて免許証不携帯のまま数回バイクに乗車したものであり、第一審原告の本件生活指導規定違反の態様が軽いということはできない。また、第一審原告の両親が本件高校のバイク禁止の方針を認識し、これを遵守する旨の誓約書を提出しながら、第一審原告の免許取得及び自動二輪車購入を容認していたことや、本件のバイク乗車が学校に発覚してからの母親の事実を否定するような対応等に照らせば、家庭での指導が難しい状況にあると学校側が判断したことも無理からぬところであると認められる。

 これらの点からすると、バイク禁止の教育方針を重視する学校側が、退学勧告を拒否し退学処分に異議がない旨の書面を提出した第一審原告に対して、退学処分をするのが相当と判断したことも、あながち首肯できないことではない。

 3 ところで、前記原判決の説示のとおり、退学処分は、生徒の身分を剥奪する重大な措置であるから、当該生徒に改善の見込みがなく、これを学外に排除することが教育上やむを得ないと認められる場合に限って選択すべきものである(学校教育法施行規則一三条三項及び本件高校の学則一九条はこの趣旨の規定と解される。)。とくに、被処分者が年齢的に心身の発育のバランスを欠きがちで人格形成の途上にある高校生である場合には、退学処分の選択は十分な教育的配慮の下に慎重になされることが要求されるというべきである。 これを本件についてみれば、次のとおりである。

 (一) 本件バイク問題は、昭和六三年一月二〇日の匿名の電話通報によって表面化し、翌月三日に本件退学処分が行われている。この十日余りの間に、学校側では、違反事実を確認した後に早々と退学しかないとの態度を決めて第一審原告に退学勧告をし、母親が自主退学を拒否して退学処分にするよう求める意向を示すと、すぐ退学処分に異議がない旨の書面の提出を求め、その書面の提出をまって本件退学処分を決定したものであり、第一審原告が退学勧告に応じないときは退学処分をする以外にはないとの姿勢であったと認められる。その過程において、できるだけ退学という事態を避けて他の懲戒処分をする余地がないかどうか、そのために第一審原告や両親に対して実質的な指導あるいは懇談を試み、今後の改善の可能性を確かめる余地がないかどうか等について、慎重に配慮した形跡は認められない。こうした学校側の対応は、いささか杓子定規的で違反行為の責任追及に性急であり、退学処分が生徒に与える影響の重大性を考えれば、教育的配慮に欠けるところがあったといわざるを得ない。

 この点に関し、第一審原告の母親が学校側に対しバイク乗車を否定するような態度をとつたこと、及び第一審原告の自主退学を拒否して退学処分を求め、退学処分に異議がない旨の書面を学校に送付したことは、前記のとおりである。しかしながら、母親の右違反行為否定のような態度も、学校側と対立して事実を争うというほど強いものであったとはうかがわれず、学校側が退学処分を行うに当たつて教育的配慮をすることを無意味ならしめる事情であったとは認められない。また、両親が自主退学を拒否して退学処分を求め、その旨の書面を送付した真の理由は証拠上は明白でないが、前記認定の経過とその記載内容からすると、学校側が退学しかないとの方針で接したために、これを前提にした対応であったと認められるのであり、右書面が提出されたことに基づいて退学処分を選択することは、本末顛倒の嫌いがあるといわなければならない。

 (二)第一審原告の本件バイク禁止違反行為は、一回だけではないし、教諭の注意にも背いたものである。

 しかし、学校側の評価によれば、第一審原告は、やや気が弱く、調子に乗りやすい面があるが、他人に優しく、明るく素直な性格で、高校一学年の成績は中位よりやや下であり、出席状況も悪くなく、本件のバイク問題以外には学校から注意や処分を受けたことはなく、普段の学校生活上で問題のある生徒とはされていなかった(甲第一号証、原審証人D、同Eの各証言)。また、第一審原告は、学校の最初の免許証提出の呼びかけには応じなかったものの、その後D教諭の発言に沿って任意に免許証を提出し、自動二輪車も処分し、D教諭らの本件の事情聴取に対しても素直に応じてバイク乗車の事実を認めていたものである。

 このような第一審原告の性格及び行状等に照らすと、本件の違反行為が、あくまでも校則に従わずバイク乗車を続けようという反抗的態度の表れであるとまでみるのは厳しすぎるものであり、本件の発覚を機に適切な訓戒と指導監督が施されるならば、第一審原告に反省させ、これを善導して、今後の違反行為を断つことを期待することができなかったとはいえない。第一審原告の家庭にも、学校側の指導監督への協力をどうしても期待できない格別の事情があったとは認められない。

 もっとも、第一審原告の原審における供述をみると、学外でのバイク乗車を禁止する本件生活指導規定は効力がない、悪いことをしたとは思っていない等と述べているが、訴訟提起後における当事者としての揚言であって、第一審原告が本件退学処分当時から、本件生活指導規定の効力に疑問をもち、これに従う意思がなく、反抗的態度をとっていたものでないことは、前記認定の経過から明らかである。

 (三) 本件高校では、バイク禁止を重要な教育方針として徹底を図っており、それなりの成果を上げてきたものである。そして、これに違反した生徒に対しては退学を勧告し、これに応じて自主退学した生徒も過去に数名いたことが認められる(原審証人Eの証言)。

 しかし、他方、本件高校が生徒に対して運転免許証の提出を呼びかけ、これに応じた生徒に対しては何らの処分を行わない取扱いをしたことがあったことはすでに認定したとおりであるし、また、昭和六二年ころに運転免許の取得が発覚したが乗車が確認できなかった生徒に対して無期停学処分をした例もあることが認められる(原審証人D、同Eの各証言)。更に、バイク禁止を重要な教育方針として維持するにしても、一方でこれに対する社会的評価が時代の推移とともに変化しつっあることも前記認定のとおり無視し難い事実である。

 これらの点を考えると、第一審原告の違反行為に対して退学処分をもって臨むのでなければ、本件高校の教育方針を損ない、他の生徒に対する訓戒的効果を失わせ、本件高校の教育上看過できない悪影響を及ぼすことになるとはたやすく認められない。

4 以上に検討したところを総合して判断すれば、第一審原告の校則違反行為は軽微なものとはいえないけれども、当時の状況下において、第一審原告に対し適切な教育的配慮を施してもなお、もはや改善の見込みがなく、これを学外に排除することが教育上やむを得ないものであったとは認めることができないというべきである。したがって、E校長が本件高校の学則一九条四号に基づいて行った本件懲戒処分は、処分権者に認められた合理的裁量の範囲を超えた違法な行為であると認めるべきである。

第一審被告は、退学処分に異議がない旨の書面を提出した第一審原告は本件退学処分の違法性を主張することができないと主張するが、右書面が提出された経緯は前記のとおりであって、第一審原告側が自発的に退学を望んだものとは認められないから、右主張は採用できない。

 

 

【最判平成8年7月18日】

要旨

判示事項

普通自動車運転免許の取得を制限しパーマをかけることを禁止する校則に違反するなどした私立高等学校の生徒に対する自主退学の勧告に違法があるとはいえないとされた事例

裁判要旨

普通自動車運転免許の取得を制限し、パーマをかけることを禁止し、学校に無断で運転免許を取得した者に対しては退学勧告をする旨の校則を定めていた私立高等学校において、校則を承知して入学した生徒が、学校に無断で普通自動車運転免許を取得し、そのことが学校に発覚した際にも顕著な反省を示さず、三年生であることを特に考慮して学校が厳重注意に付するにとどめたにもかかわらず、その後間もなく校則に違反してパーマをかけ、そのことが発覚した際にも反省がないとみられても仕方のない態度をとったなど判示の事実関係の下においては、右生徒に対してされた自主退学の勧告に違法があるとはいえない。

 

 

判旨

 私立学校は、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針によって教育活動を行うことを目的とし、生徒もそのような教育を受けることを希望して入学するものである。原審の適法に確定した事実によれば、() D高校は、清潔かつ質素で流行を追うことなく華美に流されない態度を保持することを教育方針とし、それを具体化するものの一つとして校則を定めている、() D高校が、本件校則により、運転免許の取得につき、一定の時期以降で、かつ、学校に届け出た場合にのみ教習の受講及び免許の取得を認めることとしているのは、交通事故から生徒の生命身体を守り、非行化を防止し、もって勉学に専念する時間を確保するためである、 () 同様に、パーマをかけることを禁止しているのも、高校生にふさわしい髪型を維持し、非行を防止するためである、というのであるから、本件校則は社会通念上不合理なものとはいえず、生徒に対してその遵守を求める本件校則は、民法一条、九〇条に違反するものではない。これと同旨の原審の判断は是認することができる。論旨は、独自の見解に立って原判決を非難するか、又は原判決を正解しないでこれを論難するものであり、採用することができない。

 

 その余の上告理由について

 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、その過程に所論の違法はない。右事実によれば、() D高校は、本件校則を定め、学校に無断で運転免許を取得した者に対しては退学勧告をすることを定めていた、() 上告人の入学に際し、上告人もその父親も本件校則を承知していたが、上告人は、学校に無断で普通自動車の運転免許を取得し、そのことが学校に発覚した際も顕著な反省を示さなかった、() しかし、学校は、上告人が三年生であることを特に考慮して今回に限り上告人を厳重注意に付することとし、上告人に対し本来であれば退学勧告であるが今回に限り厳重注意としたことを告げ、さらに、校長が自ら上告人と父親に直々に注意し、今後違反行為があったら学校に置いておけなくなる旨を告げ、二度と違反しないように上告人に誓わせた、() 上告人は、それにもかかわらず、その後間もなく本件校則に違反してパーマをかけ、そのことが発覚した際にも、右事実を隠ぺいしようとしたり、学校の教諭らに対して侮辱的な言辞をろうしたりする等反省がないとみられても仕方のない態度をとった、() 上告人は、本件校則違反前にも種々の問題行動を繰り返していたばかりでなく、平素の修学態度、言動その他の行状についても遺憾の点が少なくなかった、というのである。これらの上告人の校則違反の態様、反省の状況、平素の行状、従前の学校の指導及び措置並びに本件自主退学勧告に至る経過等を勘案すると、本件自主退学勧告に所論の違法があるとはいえない。