国民の要件

 

▼ 目次

【国籍法・父系優先血統主義の合憲性】

1950年の国籍法2条は、血統主義を原則とし、「出生の時に父が日本国民であるとき⑨として、父性優先血統主義をとっていた。

*東京高裁判例昭和57年6月23日等では、裁判上の救済の限界論によって訴えを棄却されたものの、この訴訟を1つの背景として、父母両系血統主義の一般化、父系血統主義が重国籍の防止策として役割が減少したこと、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」に日本も署名したことをきっかけとして、国籍法が改正され、現在では、父母両系血統主義が採用されている。


東京地判昭和56年3月30日

*昭和59年の改正前の国籍法

 

要旨

 子が提起した自己の国籍確認請求訴訟に,その母が併合提起した子の国籍確認請求訴訟が,訴えの利益を欠くとして不適法とされた事例 2 子は,自己の国籍確認請求訴訟において,父母の性別による差別を理由に,国籍法2条1号ないし3号の規定の違憲性を主張することができるとした事例 3 国籍の取得につき父系優先血統主義をとる国籍法2条1号ないし3号の規定は,父母の性別による差別を設けるものであるが,これは重国籍防止のため必要かつ有用であり,補完的な簡易帰化制度を併せ伴う限り不合理な差別とはいえず,憲法13条,14条,24条2項等の規定に違反しないとした事例

 

判旨

二 国籍法二条は、出生により日本国籍を取得する場合として、「出生の時に父が日本国民であるとき」(一号)、「出生前に死亡した父が死亡の時に日本国民であつたとき」(二号)、「父が知れない場合又は国籍を有しない場合において、母が日本国民であるとき」(三号)及び「日本で生れた場合において、父母がともに知れないとき、又は国籍を有しないとき」(四号)の四つの場合を定めている。これによれば、国籍法が、出生による日本国籍の取得につき、親との血縁関係を基礎とする血統主義を原則とし(同条一号ないし三号)、出生地との地縁関係を基礎とする生地主義を補充的なものとする(同条四号)とともに、血統主義の適用に関しては、父の国籍を第一次的基準とする父系優先主義、すなわち、父が日本人である場合には、母が外国人であつても子に日本国籍を与えるが、父が外国人である場合には、父が知れないか又は無国籍であるため子が父の国籍を取得できないときを除き、母が日本人であつても子に日本国籍を与えないとする主義を採用していることは、明らかである。

2 右の父系優先血統主義は、それ自体としては、夫婦国籍独立主義の下で子が日本国籍を取得するか否かについての一般的基準であるにすぎない。しかし、日本人と外国人との間に生まれた子が日本国籍を与えられないときは、わが国において憲法の定める基本的人権の保障を完全には享受し得す、例えば、出入国及び在留の制限(…)、職業及び事業活動等の制限(…)、財産権の制限(…)、社会保障の制限(…)などを受けるに至るのであるし、また、日本国籍を有しない子は日本人親の戸籍にも記載されないこととなつているため、戸籍によつてその存在を証明し得ないことからくる不利益ないし不都合も少なくない(例えば、予防接種や就学の通知を受けられないなど)。このように日本国籍の有無が社会生活における各種の関係において極めて重要な意義を有することにかんがみれば、日本人の子が出生により日本国籍を取得するか否かは、当該子にとつてのみならず、親にとつてもまた、その法律上の利害に密接な関係をもつ事柄であると考えられる。

したがつて、国籍法二条一号ないし三号の規定が、親の国籍を基準として子の日本国籍の取得を決定するにあたり、父の国籍を母の国籍より優先させているのは、単に抽象的に目本国籍取得の基準を母の国籍ではなく父の国籍に求めたというにとどまらず、これを子の立場からみれば、両親の一方のみを日本人とする子の中で日本人親の性別のいかんにより日本人母をもつ子を日本人父をもつ子に対して差別することであるとともに、親の立場からみても、日本人父は常に子と国籍を同じくすることができるのに対し、日本人母は原則としてこれが認められず実質的不利益を受けることがあるという点で、子との関係における父母相互の地位に差別を設けるものであるといわなければならない。



3 ところで、右に述べた父系優先血統主義は、父母の性別を基準とするものであつて、子の性別による差別ではない。しかし、父系優先血統主義の直接的効果として、子は自己が生来的日本国籍を取得できるか否かを一方的に決定されるのであり、前記のような国籍の重要性を考えれば、子としては、右国籍決定基準の定め方における父母の性別による差別の違憲性を主張するにつき実質的かつ具体的利益を有するものである。また、父系優先血統主義が子の国籍決定に関する基準であることからいつても、その違憲性は子自身を当事者とする子の国籍に関する訴訟においてこれを争わせるのが最も適切である。これらの点を考えると、右国籍訴訟の当事者である子は、その訴訟において、父系優先血統主義をとる国籍法の前記規定につき父母の性別による差別を理由としてその違憲性を主張することができるものと解するのが相当である。

他方、母は、その差別によつて直接父と差別される立場にあるものの、差別の結果としてもたらされる子の日本国籍不取得という効果は、それ自体としては子自身と国との間の関係であつて、母は第三者にとどまるものであり、子が日本国籍を取得できないことにより母の被る不利益は通常子のそれを上回ることはない。したがつて、右差別の違憲問題をも含めて子が日本国籍を取得したか否かは、当該子を当事者とする国籍確認訴訟において十分審理判断がつくされるのであり、そのほかに、母としての固有の立場において右差別の違憲性等を主張するか否かを母の意思ないし選択にかからせなければその利益を害するという場合は通常存在しない。そうすると、子において自己の国籍確認を求めることが可能であるときに、これと別個独立に第三者である母に対しても子の国籍確認を求める訴えを認めるべき必要性は存しないというべきであり、特段の事情の窺われない本件においては、原告Aの本件訴えはその利益を欠くものとして不適法といわざるを得ない。


四 そこで進んで、国籍法二条一号ないし三号の規定が原告Bの主張するように憲法の平等原則に違反する不合理なものであるか否かについて判断する。


1 成立に争いのない甲第四、第五号証、第八号証、第九号証の一ないし四によれば、出生による国籍の取得に関する立法主義は、血統主義と生地主義とに大別され、世界の各国はおおむね右両主義のいずれか一方を原則とし他方を何らかの形で補充的に取り入れた折衷的立法をしていること、そして、原則的あるいは補充的に血統主義を採用している諸国においては、ヨーロツパ及びアジヤ地域を中心として父母の血統のうち父の血統を第一次的基準とする父系優先主義をとる立法例が少なくなかつたが、近年フランス、西ドイツ、スイス及びスウエーデン等において父母双方の血統を平等に取り扱う父母両系主義に改めるに至つたことが認められる。ところで、国籍の得喪に関する事項は、伝統的に各国の国内管轄事項であるとされ、超国家的な統一原則が定立されないまま、各国ともそれぞれの歴史的沿革や国策等に基づいて独自の立法をしているのが現状であるため、その当然の結果として、異国籍者間に出生した子などについて国籍の積極的抵触(重国籍)又は消極的抵触(無国籍)という事態が発生するのを避けられない。そして、重国籍の場合には、自国の国籍の存在を主張する各国家は、一方において、同一の個人に対して兵役義務その他の国民としての義務の履行を要求し、当該個人をして去就の決定を不可能ならしめ、これを著しく不利益な地位におくとともに、他力において、これらの各国家は、当該個人に対する外交保護権の行使あるいは犯罪人引渡等をめぐつて相互に対立し、国際紛争を惹起するおそれがあるばかりでなく、国際私法の対象となる渉外的要素の有無の判断や、その準拠法としての本国法の決定にも困難が生じ、更に、重国籍の一方が自国籍であるときは、外国人に対する各種の権利制限を定めた国内法を当該個人に適用し得るか否かを解決する必要にも迫られる。他方また、無国籍の場合には、国籍を前提としてのみ享受し得る国内居住権や参政権等がいずれの国においても保障されず、殊にその者の利益を最終的に保護すべき国家がないことになるため、当該個人は常時不安定な生活を余儀なくされ、人権尊重上極めて好ましくないことは、いうまでもない。このように、現在の国際社会において国籍の抵触が不可避的に発生し、国際平和の維持及び人権尊重の面からこれを放置しておくことができないため、国籍の抵触をできるだけ防止して国籍唯一の原則を実現することは、国際的に承認された国籍立法の理想とされているのである。


2 現行の国籍法は、昭和二五年に制定されたもので、旧国籍法と同じく父系優先血統主義を採用しているが、立法の際の国会審議における政府当局の説明等によれば、その当時において原則的あるいは補充的に血統主義を採用している各国の国籍立法のうちで母系主義を原則とするものはその例がないため、もしわが国が父母両系血統主義を採用すると、父が血統主義をとる外国の国民で母が日本人の場合には常に子が重国籍となるので、主として国籍の抵触防止の見地から、父の国籍を優先させたものであるとされている。国籍法が、旧国籍法と較べて重国籍の防止に相当の考慮を払い、そのための規定として四条五号、八条ないし一〇条等を設けていることから考えると、父系優先血統主義を採用した主たる目的が右説明のとおり重国籍を防止することにあつたとの点はこれを認めるべきである。

右のような重国籍防止の目的は、1で述べた重国籍の弊害からみて、国の重要な利益に合致するものであるとともに、当該当事者個人にとつても結局のところ利益となるものである。重国籍当事国が友好関係にあり相互に重国籍の調整措置を設けているような場合だけを想定するならば、重国籍の不都合はさして表面化しないけれども、そうでない場合のことをも考えて一般的に論じる限り、重国籍の防止が重要であることは明らかである。現実に重国籍が生じた場合の具体的な法律関係の処理としては、例えば、重国籍の一方が自国籍であるときは本国法の決定につき自国籍を優先させるとか、重国籍がともに外国籍のときは住居所所在地の国籍を基準とするといつた解決策が従来から若干の条約や立法等において採用されているが、それらは重国籍によつて生じる問題の一部を解決するものにすぎないし、また、それらの解決策のすべてについて国際的承認が得られているわけでもないのである。したがつて、そのような解決策があるからといつて、重国籍そのものの防止を図ることの必要性を過小評価することはできない。


3 そこで、右重国籍防止の目的を達成するための手段としての面から父系優先血統主義について検討する。

(一) 重国籍の防止方法としては、重国籍の発生を抑止する方法と、発生した重国籍を事後的に解消させる方法とがある。重国籍者の意思により一方国籍の放棄あるいは選択をさせるのは後者の方法であるが、この方法は、いずれの重国籍国においても国籍の離脱が自由に認められていることを前提とする。今日、国籍離脱の自由の原則が国際的に一応承認されているとはいえ(憲法二二条二項、国籍法一〇条参照)、なお一定の場合(例えば、一定の年齢に達する前あるいは兵役義務を履行し又は免除される前など)にはこれを禁止ないし制限する立法例もみられるのであるから、このような禁止ないし制限のある国の国籍と日本国籍とを有する重国籍者は、日本国籍の保有を望む限り重国籍状態を継続していくほかはない。このため、関係諸国との間において重国籍解消のための効果的な国際的取決めが成立するまでは、重国籍の発生自体をできるだけ少なくする必要がある。

(二) もつとも、重国籍の発生を少なくする必要があることは右のとおりであるとしても、各国の国籍立法に多様性が存在している国際社会の現実の下では、その実現には一定の限界を免れない。すなわち、父が日本人で母が父母両系血統主義をとる外国の国民である場合には、わが国が父系優先血統主義を採用しても、重国籍の発生を防止できないし、また、生地主義をとる外国において父を日本人として出生した場合にも同様である(ただし国籍法九条参照)。このように、父系優先血統主義をとつたからといつて、重国籍の発生を完全に防止できるものではない。しかし、それだからといつて、父系優先血統主義が重国籍を防止するための手段として無力であるというのは早計である。なぜなら、父が父系優先又は父母両系の血統主義を採用する外国の国民で母が日本人である場合に、わが国が原告のいうように父母両系血統主義をとれば子が常に重国籍となるのに対し、父系優先血統主義によれば子が重国籍者とならないのであり、父系優先血統主義が重国籍の防止に寄与するからである。そして、原則的あるいは補充的に血統主義をとる国で父系優先主義を採用している国は世界的になお少なからず存在し、殊にわが国における在留者数等からいつて渉外的婚姻関係の生ずることが多い韓国をはじめアジヤ諸国がおおむねそうである現実を考えると、わが国が父母両系血統主義をとることによつて重国籍が発生し、父系優先血統主義をとることによつてこれを防止し得るという事態は、具体的に相当程度予測されるのであつて、決して単なる観念上の想定にすぎないものではない。この点で、父系優先血統主義は、わが国の現実の状況の下では、重国籍の発生防止に相当効果のある措置ということができる。この父系優先血統主義に代わつて、他の利益を損うことなく、かつ、これと同じ程度実効的に重国籍の発生を防止し得る別の法手段を見出すことはむずかしい。