13条 幸福追求権(1)・最大判昭和25年11月22日・最大判昭和45年9月16日・喫煙禁止訴訟・最判平成15年12月11日・ストーカー規制法

 

  目次

 

最大判昭和25年11月22日

要旨

判示事項

一 刑法第一八六条第二項賭場開張図利罪規定の合憲性

二 政府乃至都道府縣が賭場開張図利乃至富籤罪と本質上同一の行為を為すことによつて右犯罪行為を公認したものといえるか

裁判要旨

一 刑法第一八六条第二項賭場開張図利罪の規定は、憲法第一三条に違反しない。

二 賭博及び富籤に関する行為が風俗を害し、公共の福祉に反するものと認むべきことは前に説明したとおりであるから、所論は全く本末を顛倒した議論といわなければならない。すなわち、政府乃至都道府縣が自ら賭場開張図利乃至富籤罪と同一の行為を為すこと自体が適法であるか否か、これを認める立法の当否は問題となり得るが、現に犯罪行為と本質上同一である或る種の行為が行われているという事実並びにこれを認めている立法があるということだけから国家自身が一般に賭場開張図利乃至富籤罪を公認したものということはできない。

 

 

判旨

 弁護人山崎一男同遊田多聞の上告趣意について。

 賭博行為は、一面互に自己の財物を自己の好むところに投ずるだけであつて、他人の財産権をその意に反して侵害するものではなく、従つて、一見各人に任かされた自由行為に属し罪悪と称するに足りないようにも見えるが、しかし、他面勤労その他正当な原因に因るのでなく、単なる偶然の事情に因り財物の獲得を僥倖せんと相争うがごときは、国民をして怠惰浪費の弊風を生ぜしめ、健康で文化的な社会の基礎を成す勤労の美風(憲法二七条一項参照)を害するばかりでなく、甚だしきは暴行、脅迫、殺傷、強窃盗その他の副次的犯罪を誘発し又は国民経済の機能に重大な障害を与える恐れすらあるのである。これわが国においては一時の娯楽に供する物を賭した場合の外単なる賭博でもこれを犯罪としその他常習賭博、賭場開張等又は富籖に関する行為を罰する所以であつて、これ等の行為は畢竟公益に関する犯罪中の風俗を害する罪であり(旧刑法第二篇第六章参照)、新憲法にいわゆる公共の福祉に反するものといわなければならない。ことに賭場開張図利罪は自ら財物を喪失する危険を負担することなく、専ら他人の行う賭博を開催して利を図るものであるから、単純賭博を罰しない外国の立法例においてもこれを禁止するを普通とする。されば、賭博等に関する行為の本質を反倫理性、反社会性を有するものでないとする所論は、偏に私益に関する個人的な財産上の法益のみを観察する見解であつて採ることができない。

 しかるに、所論は、賭場開張図利の行為は新憲法施行後においては国家の中枢機関たる政府乃至都道府県が法律に因り自ら賭場開張図利と本質的に異なることなき「競馬」「競輪」の主催者となり、賭場開張図利罪乃至富籖罪とその行為の本質を同じくする「宝籖」を発売している現状からして、国家自体がこれを公共の福祉に反しない娯楽又は違法性若しくは犯罪性なき自由行為の範囲内に属するものとして公認しているものと観察すべく、従つて、刑法一八六条二項の規定は新憲法施行後は憲法一三条、九八条に則り無効となつた旨主張する。

 しかし、賭博及び富籖に関する行為が風俗を害し、公共の福祉に反するものと認むべきことは前に説明したとおりであるから、所論は全く本末を顛倒した議論といわなければならない。すなわち、政府乃至都道府県が自ら賭場開張図利乃至富籖罪と本質上同一の行為を為すこと自体が適法であるか否か、これを認める立法の当否は問題となり得るが現に犯罪行為と本質上同一である或る種の行為が行われているという事実並びにこれを認めている立法があるということだけから国家自身が一般に賭場開張図利乃至富籖罪を公認したものということはできない。それ故所論は採用できない。

 よつて、旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

 

 

【最大判昭和45年9月16日・喫煙禁止訴訟】

要旨

未決勾留中の在監者に対する喫煙の禁止は、拘禁の目的と制限される基本的人権の内容、制限の必要性などを総合すると、必要かつ合理的なものと認められるから、憲法13条に違反しない。

 

判旨

 所論は、在監者に対する喫煙を禁止した監獄法施行規則九六条は、未決勾留により拘禁された者の自由および幸福追求についての基本的人権を侵害するものであつて、憲法一三条に違反するというにある。

 しかしながら、未決勾留は、刑事訴訟法に基づき、逃走または罪証隠滅の防止を目的として、被疑者または被告人の居住を監獄内に限定するものであるところ、監獄内においては、多数の被拘禁者を収容し、これを集団として管理するにあたり、その秩序を維持し、正常な状態を保持するよう配慮する必要がある。このためには、被拘禁者の身体の自由を拘束するだけでなく、右の目的に照らし、必要な限度において、被拘禁者のその他の自由に対し、合理的制限を加えることもやむをえないところである。

 そして、右の制限が必要かつ合理的なものであるかどうかは、制限の必要性の程度と制限される基本的人権の内容、これに加えられる具体的制限の態様との較量のうえに立つて決せられるべきものというべきである。

 これを本件についてみると、原判決(その引用する第一審判決を含む。)の確定するところによれば、監獄の現在の施設および管理態勢のもとにおいては、喫煙に伴う火気の使用に起因する火災発生のおそれが少なくなく、また、喫煙の自由を認めることにより通謀のおそれがあり、監獄内の秩序の維持にも支障をきたすものであるというのである。右事実によれば、喫煙を許すことにより、罪証隠滅のおそれがあり、また、火災発生の場合には被拘禁者の逃走が予想され、かくては、直接拘禁の本質的目的を達することができないことは明らかである。のみならず、被拘禁者の集団内における火災が人道上重大な結果を発生せしめることはいうまでもない。他面、煙草は生活必需品とまでは断じがたく、ある程度普及率の高い嗜好品にすぎず、喫煙の禁止は、煙草の愛好者に対しては相当の精神的苦痛を感ぜしめるとしても、それが人体に直接障害を与えるものではないのであり、かかる観点よりすれば、喫煙の自由は、憲法一三条の保障する基本的人権の一に含まれるとしても、あらゆる時、所において保障されなければならないものではない。したがつて、このような拘禁の目的と制限される基本的人権の内容、制限の必要性などの関係を総合考察すると、前記の喫煙禁止という程度の自由の制限は、必要かつ合理的なものであると解するのが相当であり、監獄法施行規則九六条中未決勾留により拘禁された者に対し喫煙を禁止する規定が憲法一三条に違反するものといえないことは明らかである。

 したがつて、論旨は理由がない。

 

 

【最判平成15年12月11日・ストーカー規制法】

要旨

ストーカー行為等の規制等に関する法律の目的は正当であり、同法による規制の内容は合理的で相当なものであると認められることにかんがみれば、同法2条1項・2項、13条1項は、憲法13条・21条1項に違反せず、また、同法2条2項の「反復して」の文言は、つきまとい等を行った期間、回数等に照らし自ずから明らかになるから不明確であるといえず、憲法13条・21条1項、31条に違反しない。

 

判旨

 1 弁護人福島昭宏の上告趣意のうち、規制の内容に関し憲法13条、21条1項違反をいう点について

 所論は、ストーカー行為等の規制等に関する法律(以下「ストーカー規制法」という。)2条1項、2項、13条1項は、規制の範囲が広きに過ぎ、かつ、規制の手段も相当ではないから、憲法13条、21条1項に違反する旨主張する。

 ストーカー規制法は、ストーカー行為を処罰する等ストーカー行為等について必要な規制を行うとともに、その相手方に対する援助の措置等を定めることにより、個人の身体、自由及び名誉に対する危害の発生を防止し、あわせて国民の生活の安全と平穏に資することを目的としており、この目的は、もとより正当であるというべきである。そして、ストーカー規制法は、上記目的を達成するため、恋愛感情その他好意の感情等を表明するなどの行為のうち、相手方の身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる社会的に逸脱したつきまとい等の行為を規制の対象とした上で、その中でも相手方に対する法益侵害が重大で、刑罰による抑制が必要な場合に限って、相手方の処罰意思に基づき刑罰を科すこととしたものであり、しかも、これに違反した者に対する法定刑は、刑法、軽犯罪法等の関係法令と比較しても特に過酷ではないから、ストーカー規制法による規制の内容は、合理的で相当なものであると認められる。

 以上のようなストーカー規制法の目的の正当性、規制の内容の合理性、相当性にかんがみれば、同法2条1項、2項、13条1項は、憲法13条、21条1項に違反しないと解するのが相当である。このように解すべきことは、当裁判所の判例(最高裁昭和57年(行ツ)第156号同59年12月12日大法廷判決・民集38巻12号1308頁、最高裁昭和57年(あ)第621号同60年10月23日大法廷判決・刑集39巻6号413頁)の趣旨に徴して明らかである。