法の下の平等の意味 最大判昭和25年10月11日・最大判昭和39年5月27日・最大判昭和39年11月18日

 目次

 

最大判昭和25年10月11日

要旨

憲法一四条は、人格の価値がすべての人間につき平等であり、人種・宗教・性別・社会的身分等の差異により特権を有したり特別の不利益の待遇を受けてはならないという大原則を示したものであつて、法がこの原則の範囲内で、各人の年令・自然的素質・職業・人と人との特別の関係等の事情を考慮して、道徳・正義・合目的性等の要求から具体的規定をすることを妨げるものではない。

 

判旨

 おもうに憲法一四条が法の下における国民平等の原則を宣明し、すべて国民が人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係上差別的取扱を受けない旨を規定したのは、人格の価値がすべての人間について同等であり、従つて人種、宗教、男女の性、職業、社会的身分等の差異にもとずいて、あるいは特権を有し、あるいは特別に不利益な待遇を与えられてはならぬという大原則を示したものに外ならない。奴隷制や貴族等の特権が認められず、又新民法において、妻の無能力制、戸主の特権的地位が廃止せられたごときは、畢竟するにこの原則に基くものである。しかしながら、このことは法が、国民の基本的平等の原則の範囲内において、各人の年令、自然的素質、職業、人と人との間の特別の関係等の各事情を考慮して、道徳、正義、合目的性等の要請より適当な具体的規定をすることを妨げるものではない。刑法において尊属親に対する殺人、傷害致死等が一般の場合に比して重く罰せられているのは、法が子の親に対する道徳的義務をとくに重要視したものであり、これ道徳の要請にもとずく法による具体的規定に外ならないのである。

 

 

最大判昭和39年5月27日

要旨

町長が町職員定員条例による定員を超過する職員を整理するに当り、五五才以上の高齢者であることを一応の基準としたうえ、更に該当者の勤務成績を考慮して待命処分を命じたことは、事柄の性質上高齢者を不合理に差別したとはいえないから、憲法一三条・憲法一四条および地方公務員法一三条に違反するものではない。

 

判旨

 思うに、憲法一四条一項及び地方公務員法一三条にいう社会的身分とは、人が社会において占める継続的な地位をいうものと解されるから、高令であるということは右の社会的身分に当らないとの原審の判断は相当と思われるが、右各法条は、国民に対し、法の下の平等を保障したものであり、右各法条に列挙された事由は例示的なものであつて、必ずしもそれに限るものではないと解するのが相当であるから、原判決が、高令であることは社会的身分に当らないとの一事により、たやすく上告人の前示主張を排斥したのは、必ずしも十分に意を尽したものとはいえない。しかし、右各法条は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは、なんら右各法条の否定するところではない

 本件につき原審が確定した事実を要約すれば、被上告人立山町長は、地方公務員法に基づき制定された立山町待命条例により与えられた権限、すなわち職員にその意に反して臨時待命を命じ又は職員の申出に基づいて臨時待命を承認することができる旨の権限に基づき、立山町職員定員条例による定員を超過する職員の整理を企図し、合併前の旧町村の町村長、助役、収入役であつた者で年令五五歳以上のものについては、後進に道を開く意味でその退職を望み、右待命条例に基づく臨時待命の対象者として右の者らを主として考慮し、右に該当する職員約一〇名位(当時建設課長であつた上告人を含む)に退職を勧告した後、上告人も右に該当する者であり、かつ勤務成績が良好でない等の事情を考慮した上、上告人に対し本件待命処分を行つたというのであるから、本件待命処分は、上告人が年令五五歳以上であることを一の基準としてなされたものであることは、所論のとおりである。

 ところで、昭和二九年法律第一九二号地方公務員法の一部を改正する法律附則三項は、地方公共団体は、条例で定める定員をこえることとなる員数の職員については、昭和二九年度及び昭和三〇年度において、国家公務員の例に準じて条例の定めるところによつて、職員にその意に反し臨時待命を命ずることができることにしており、国家公務員については、昭和二九年法律第一八六号及び同年政令第一四四号によつて、過員となる職員で配置転換が困難な事情にあるものについては、その意に反して臨時待命を命ずることができることにしているのであり、前示立山町待命条例ならびに被上告人立山町長が行つた本件待命処分は、右各法令に根拠するものであることは前示のとおりである。しかして、一般に国家公務員につきその過員を整理する場合において、職員のうちいずれを免職するかは、任命権者が、勤務成績、勤務年数その他の事実に基づき、公正に判断して定めるべきものとされていること(昭和二七年人事院規則一一―四、七条四項参照)にかんがみても、前示待命条例により地方公務員に臨時待命を命ずる場合においても、何人に待命を命ずるかは、任命権者が諸般の事実に基づき公正に判断して決定すべきもの、すなわち、任命権者の適正な裁量に任せられているものと解するのが相当である。これを本件についてみても、原判示のごとき事情の下において、任命権者たる被上告人が、五五歳以上の高令であることを待命処分の一応の基準とした上、上告人はそれに該当し(本件記録によれば、上告人は当時六六歳であつたことが明らかである)、しかも、その勤務成績が良好でないこと等の事情をも考慮の上、上告人に対し本件待命処分に出たことは、任命権者に任せられた裁量権の範囲を逸脱したものとは認められず、高令である上告人に対し他の職員に比し不合理な差別をしたものとも認められないから、憲法一四条一項及び地方公務員法一三条に違反するものではない。されば、本件待命処分は右各法条に違反するものではないとの原審の判断は、結局正当であり、原判決には所論のごとき違法はなく、論旨は採用のかぎりでない。

 

 

最大判昭和39年11月18日

要旨

・各人について存する経済的・社会的事実関係上の差異から生ずる不均等な扱が、一般社会通念上合理的な根拠に基づいて必要と認められる場合には、その取扱は憲法一四条に違反しない。

・憲法一四条の法の下の平等の原則は、特別の事情のない限り外国人に対しても類推されるべきものである。

 

 

判旨

 すなわち、憲法一四条は「すべて国民は、法の下に平等であつて、……」と規定し、直接には日本国民を対象とするものではあるが、法の下における平等の原則は、近代民主主義諸国の憲法における基礎的な政治原理の一としてひろく承認されており、また既にわが国も加入した国際連合が一九四八年の第三回総会において採択した世界人権宣言の七条においても、「すべて人は法の前において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。……」と定めているところに鑑みれば、わが憲法一四条の趣旨は、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても類推さるべきものと解するのが相当である。他面、憲法一四条は法の下の平等の原則を認めいてるが、各人には経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異が存するものであるから、法規の制定またはその適用の面において、右のような事実関係上の差異から生ずる不均等が各人の間にあることは免れ難いところであり、その不均等が一般社会観念上合理的な根拠に基づき必要と認められるものである場合には、これをもつて憲法一四条の法の下の平等の原則に反するものといえないことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二四年(れ)第一八九〇号、同二五年六月七日大法廷判決、刑集四巻六号九五六頁、昭和三一年(あ)第六三五号、同三三年三月一二日大法廷判決、刑集一二巻三号五〇一頁等)。

 ところで、所論日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(昭和三三年法律第六八号による改正前の昭和二七年法律第一一二号、以下特例法という。)は、同法六条、一一条、一二条等の規定により、合衆国軍隊の公用物品等のわが国への輸入については、それが合衆国軍隊、その構成員、軍属、これらの者の家族等の用に供するためのものである限りにおいては、関税を課さないが、これをその他の者が日本国内において譲り受けようとする場合には、当該譲受を輸入とみなして関税法を適用する旨を定めたものであるところ、右諸規定は、前記安全保障条約に基づく行政協定一一条が合衆国軍隊、その構成員等の用に供する物品等のわが国への輸入につき関税を課さない旨を規定しているところに照応し、同条の規定を実施するため制定されたものにほかならない。そして、前記安全保障条約および行政協定が違憲無効と認められないことは、当裁判所の判例とするところであり(昭和三四年(あ)第七一〇号、同年一二月一六日大法廷判決、刑集一三巻一三号三二二五頁)、また、憲法九八条二項は、わが国が締結した条約と確立された国際法規はこれを誠実に遵守すべきことを定めており、さらに、外国軍隊が条約によりまたは同意を得て他国に駐在する場合、その外国軍隊の機能を全うさせる必要上、これに対しこの種の特権を認めることは、一般に承認された国際慣行と認められる。しからば、このような諸点を総合して観察すれば、特例法が、合衆国軍隊、その構成員等に対し所論の特権を認めたことは、十分合理的な根拠があると認められるのであつて、右特例法の諸規定は憲法一四条に違反するものということはできない。それ故、所論憲法一四条違反の主張は理由がない。