1 人種による差別(1) 外国人登録例・名古屋高裁昭和46年4月30日・トヨタ自工純血訴訟事件・東京高裁昭和60年8月26日・台湾人元日本兵戦死傷補償請求事件控訴審判決等

 

 目次

 

最大判昭和30年12月14日

要旨

外国人登録令(昭和二二年勅令二〇七号)は、憲法一四条に違反しない。

 

判旨

 外国人登録令は、外国人に対する諸般の取扱の適正を期することを目的として立法されたもので、人種の如何を問わず、わが国に入国する外国人のすべてに対し、取扱上必要な手続を定めたものであり、そしてこのような規制は、諸外国においても行はれていることであつて何等人種的に差別待遇をする趣旨に出たものでないから論旨は理由がない

 

 

【最判昭和34年7月24日】

要旨

外国人登録法は、憲法一四条および三六条に違反しない。

 

判旨

外国人登録法は、本邦に在留する外国人の居住関係及び身分関係を明確ならしめ、もつて在留外国人の公正な管理に資することを目的とする法律であつて人種や社会的身分の如何を問わず、わが国に在留する外国人のすべてに対し、管理上必要な手続を定めたものであり、そしてこのような規制は、諸外国においても行われていることであつて、何ら人種的にまた社会的身分により差別待遇をする趣旨に出たものでなく同法律が憲法一四条に違反しないことは、外国人登録令(昭和二二年勅令第二〇七号)が憲法一四条に違反しない旨を判示した昭和三〇年一二月一四日大法廷判決(刑集九巻一三号二七五六頁)の趣旨に徴し明白であるから、同一四条違反を主張する論旨は理由がない

 

 

【最判昭和38年4月5日】

要旨

日本国民のなかに内地人・朝鮮人・台湾人の区別を設けていた共通法は、憲法一四条に違反しない。

 

判旨

 原判決は、日華条約によつて国籍異動の生ずる人的範囲は日本が台湾等を領有した後において、日本国法上台湾人としての法的地位を有した者であるとして居る。ところで右国籍異動の人的範囲が、如何なる時点において台湾人としての法的地位を有して居た者を指称するものであるかについては原判決において直接明示する処がない。然し原判決が上告人嘉子について昭和二十七年二月十二日台湾人たる身分を取得したと判断して居るところからすれば、右の基準時点は平和条約発効の時として居るものとしか考えられない。従つて原判決は平和条約発効の時において日本国法上台湾人たる法的地位を有して居た者が国籍異動の人的範囲であるとして居る訳である。

 確かに共通法は日本国民中に内地人、朝鮮人、台湾人と云う身分上の差別を設けて居た。台湾等及び朝鮮は、内地と異る異法地域とされ、台湾人・朝鮮人はそれぞれ台湾戸籍、朝鮮戸籍に登載されると共に、その身分上の地位は法律上諸般の制約を受けたのであり、その権利義務の上で内地人とは差別された取扱を受けて居た。然し昭和二十二年五月三日施行せられた日本国憲法第十四条第一項はすべて国民は法の下に平等であるとし、如何なる法的差別も認めないことを明示したのである。されば日本国民の中に内地人、朝鮮人の区別を設け、その間に法律上権利義務について差別を設けることは日本国憲法施行後は許されないものである。されば共通法が内地人、台湾人、朝鮮人について、法律上の権利義務に差別を設けて居る限りにおいて、憲法第十四条第一項に違背するもであり無効のものである。

 従つて昭和二十二年五月三日以降においては、その権利義務に差別あるものとしての内地人、台湾人、朝鮮人の区別は効力を失つたものである。共通法上の内地人、台湾人、朝鮮人の区別は単に登載されて居る戸籍の区別であるに過ぎないのである。

 

 

【最判昭和39年11月18日】

要旨

・日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基づく行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(昭和33年法律68号改正前の昭和27年法律112号)6条・11条・12条は、憲法14条1項に違反しない。

・憲法一四条の法の下の平等の原則は、特別の事情のない限り外国人に対しても類推されるべきものである。

 

判旨

 すなわち、憲法一四条は「すべて国民は、法の下に平等であつて、……」と規定し、直接には日本国民を対象とするものではあるが、法の下における平等の原則は、近代民主主義諸国の憲法における基礎的な政治原理の一としてひろく承認されており、また既にわが国も加入した国際連合が一九四八年の第三回総会において採択した世界人権宣言の七条においても、「すべて人は法の前において平等であり、また、いかなる差別もなしに法の平等な保護を受ける権利を有する。……」と定めているところに鑑みれば、わが憲法一四条の趣旨は、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても類推さるべきものと解するのが相当である。他面、憲法一四条は法の下の平等の原則を認めいてるが、各人には経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異が存するものであるから、法規の制定またはその適用の面において、右のような事実関係上の差異から生ずる不均等が各人の間にあることは免れ難いところであり、その不均等が一般社会観念上合理的な根拠に基づき必要と認められるものである場合には、これをもつて憲法一四条の法の下の平等の原則に反するものといえないことは、当裁判所の判例とするところである(昭和二四年(れ)第一八九〇号、同二五年六月七日大法廷判決、刑集四巻六号九五六頁、昭和三一年(あ)第六三五号、同三三年三月一二日大法廷判決、刑集一二巻三号五〇一頁等)。

 

 

【東京高裁昭和40年1月29日】

要旨

在留外国人に対して登録証明書の携帯を義務付けた外国人登録法一三条一項・一八条一項七号は、憲法一四条に違反しない。

 

判旨

 論旨は、外国人登録法第一三条第一項・第一八条第一項第七号は日本国憲法第一四条に違反するというのであるが、外国人登録法第一三条第一項が在留外国人に対して日本人には要求していない登録証明書の携帯を義務づけ、かつその違反を同法第一八条第一項第七号によつて処罰することとしているからといつて日本国憲法第一四条に違反するといえないことは、昭和三四年七月二四日最高裁判所第二小法廷判決(刑集一三券八号一二一二頁)の説示しているところによつて明らか

 

 

【名古屋高裁昭和46年4月30日・トヨタ自工純血訴訟事件】

要旨

株式会社の原始定款が役員の資格を日本人に限定しているとしても、憲法一四条の規定に違反し私法的自治の原則を逸脱したものとはいえない。

 

判旨

  () およそ日本国憲法第三章以下の各条項において規定する国民の権利および自由、即ちいわゆる基本的人権は本来国家および公共団体に対する関係において一般国民に保障された権利であつて右各条項は国家および公共団体等の国家機関が立法、行政等の国政上で右基本的人権を侵害してはならない旨を規定しているものであり、それ故憲法第一四条の規定もまた右の国家機関が国政上で一般国民に対し不合理な差別的取扱をすることを禁止したものであるにとどまり、直接に私人相互間の法律関係における差別的取扱をも規律せんとするものではないことはその沿革および解釈上自明のことといわなければならない。而して私法上の法律関係であることが明らかな本件総会決議の内容が右憲法第一四条の規定により直接に無効とされることはその性質上ありえないものというべきであるから、原告の憲法違反の所論はそれ自体失当というべきである。

  () しかしもとより憲法は国家の最高法規であつて、法秩序全体を支配する根本規範である以上、日本国憲法が右の如く国民に対し諸々の基本的人権を保障し立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とする旨明言していることはとりもなおさずこれらの基本的人権が侵害せられないことを以つて国家の法秩序全体を支配する最高の価値としたことを意味するものにほかならないから、私人相互間の法律関係といえども何んらの合理的理由のない不当な差別的取扱を内容とし、それが憲法第一四条の規定の精神に違背するに至るものであるときは、それはもはや私法的自治の原則の範囲を逸脱して民法第九〇条にいわゆる公の秩序、善良の風俗に違反する結果、無効とせられるに至ることは当然である。また他面商法第二五四条第二項は会社は定款を以つてするも取締役が株主たることを要する旨を定めることができないと規定し、同法二八〇条はこれを監査役にも準用しているところ、右規定は昭和二五年法律第一六七号により改正追加せられたものでその趣旨とするところは、右改正以前において取締役が大株主のみに限定されていた弊害を除去するとともに、いわゆる企業の所有と経営の分離を法律的にも承認し取締役および監査役を株主中から選任することを要しないものとして広く会社の具体的運営の任にあたる者に広く適材を求めんとするにあるものと解される。而して右規定は取締役および監査役の資格を株主に限定することを禁止するにとどまり、各株式会社においてその他これが資格要件を定款を以つて規定することの一切を禁止する趣旨をも含むものではなく、それは原則として各株式会社の自治に委ねられていることがらであると解せられ、ただその資格制限が法の精神に違背するとか、あるいは株式会社の本質に違反する等合理的根拠のないものであるときにはじめて前記のとおりその資格制限は株式会社自治の原則を逸脱し無効とせられるに至るものというべきである。

  () 従つて結局のところ本件総会決議の有効無効の判断は専らその内容たる被告会社の取締役および監査役は日本国籍を有する者に限る旨の資格制限が右の意味において、私法的自治の原則ないし株式会社自治の原則を逸脱した合理的根拠のないもので、民法第九〇条に違反しているかどうかによつて決せられるものということができる。そして株主総会決議は株式会社における意思決定機関たる株主総会の意思決定たることをその本質とすることは前記のとおりであるところ、右株主総会決議の動機、目的は、もとより当該決議案を提出した代表取締役やあるいは株主総会において右決議案に賛成した多数株主等の右決議をなすに至つた動機目的とは全く別異の観念であるとともに、それを法律的に把握し、確定することは性質上不可能な事柄に属するものであるから、右総会決議自体の動機、目的が特にその決議の内容として明示せられている場合等の特段の事情がない限り、株主総会決議の内容自体には何んら法令又は定款違反の瑕疵がなく、単にその決議をなすに至つた動機、目的に公序良俗違反の不法があるにとどまる場合には、当該決議を無効たらしめるものではなく(最高裁判所昭和三五年一月一二日判決、商事法務研究第一六七号第一八頁参照)、即ち原則として株主総会決議についてはそれをなすに至つた動機、目的はその効力に対し何んらの影響を及ぼすものではないものと解するのが相当であり、従つて右の如き動機目的が特にその内容として明示せられていることの認められない本件総会決議の効力を検討するに当つては右決議の内容およびその効果を客観的に考察すれば足るものということができる。

  () そこで翻つて憲法第一四条の規定の趣旨についてみると、同条第一項は「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において差別されない。」旨規定しているところ、ここにいう国民とは日本国民を意味しまた人種とは国家の所属員たる資格を意味する国籍なる概念とは区別された人間の生物学的、人類学的な種別を意味するものであることは日本国憲法の規定自体において、基本的人権の保障される主体として「何人も」(憲法第一八条等)という用語と「すべて国民は」(同法第二五条等)という用語とを一応の基準にもとづいて使い分けていることよりすれば、その規定の文理上明らかであるというべく、従つて右法の下の平等を規定する憲法第一四条は直接には日本国民に対してこれを保障しているものと解するのが相当であるが、もとより右規定が外国人に対して法の下の平等の保障を否定している趣旨であるものと解すべきでないことは当然であつて、外国人に対しても、いわゆる参政権のようにその権利の性質上日本国民との間におのずから差別のあるものは別にしても、でき得る限り日本国民と同様の平等な取扱を尊重しこれを保障すべきことは近代法の予想するところであるとともに、いわゆる自然法と国際原理協調主義とをその基調としている日本国憲法もまたそれを当然要請しているものとみるべきであるが、現下の世界体制が未だ国家という単位を法的、経済的体制の基礎においている以上、外国人の当該国家に対する関係はその一般国民の国家に対する関係が全面的且つ恒久的な結合関係であるのとは本質的に相違し、専ら場所的居住関係をその重要な要素として成り立ついわば片面的関係とでもいうべきものであり、このことからしても、外国人に対しすべての面に亘つて一般国民と同等に取扱われるべきことを要請されているものとみることはできないとともにさらにまた私人相互の関係においては、外国人が一般国民からこれと同等に取扱われるべきことを国家が強行法的に実現し保障しているものとみることはできず、そこには国家が容認しえない私人相互の私法的自治の支配する領域の存在することも認めなければならないところであり、特に現在の国際経済社会も各国の国民経済を単位としそれを前提として営まれているものであるから、日本の各国内企業がその企業内における外国人の経済活動に対してある程度の制約を課することもまた各国内企業のそれぞれの自主的な判断に委ねられるべき事柄であることを承認しなければならず、ただそれが私法的自治の原則を逸脱した合理的根拠のないものであるときにはじめてそこに国家が介入してその私人が法的に無効とされるに至るものと解せられる。そしてかような観点に立つてみるとき、一般に各株式会社においてその取締役および監査役の資格につきこれを日本国籍を有する者に限る旨をその定款に規定した場合、それがいわゆる原始定款によるものであれば、これはいまだ当該株式会社の自主的な判断に委ねられる領域に属するものであつて私法的自治の原則ないし株式会社自治の原則を逸脱した不合理な外国人に対する差別的取扱であるとしてこれを無効とすることは相当ではないと解すべきである。

 

 

【東京高裁昭和60年8月26日・台湾人元日本兵戦死傷補償請求事件控訴審判決】

要旨

戦傷病者戦没者遺族等援護法および恩給法がいずれもその受給資格を日本国籍を有する者に限定していることは、合理的理由の差別であるとまではいえないから、第二次大戦下において戦死傷し、日本国と中華民国との間の平和条約の発効により日本国籍を喪失した台湾人およびその遺族らが右各法による給付を受けられないとしても憲法一四条に違反するものでなく、また、援護または恩給給付の具体的内容は、国会および政府によつて決定されるべき事項であり、その決定をまたずに直ちに憲法一四条に基づき具体的請求権を行使し得るものでもない。

 

判旨

(一) 憲法一四条は、直接には日本国民を対象とするものではあるが、特段の事情の認められない限り外国人に対しても類推されるべきものと解するのが相当である(最高裁昭和三九年一一月一八日大法廷判決・刑集一八巻九号五七九頁参照)。しかし、同条は、絶対的平等を保障したものではなく、合理的な理由のない差別を禁止したものと解すべきであり、事柄の性質に応じて合理的と認められる差別的取扱いをすることは同条の禁ずるところではない。ところで、援護法上の援護、恩給法上の元軍人軍属及びその遺族に対する恩給の支給は、広義には戦争による被害の補償とみられるのであつて、さきに説示したように、戦争被害に対する補償や救済のための措置は、国の立法と法律の施行に委ねられており、これらについては当局の裁量権があるわけであるから、それが著しく合理性を欠き、裁量の範囲を逸脱しているとみられる場合を除いては補償、救済の対象者、内容等の面で差等を生じても、憲法一四条違反の問題は生じないといつてよい。

(二) 援護法は、制定当初「この法律は、軍人軍属の公務上の負傷若しくは疾病又は死亡に関し、国家補償の精神に基き、軍人軍属であつた者又はこれらの者の遺族を援護することを目的とする。」(一条)と規定し、右にいう軍人とは、「恩給法の特例に関する件(昭和二一年勅令第六八号)第一条に規定する軍人及び準軍人並びに内閣総理大臣の定める者以外のもとの陸軍又は海軍部内の公務員又は公務員に準ずべき者」をいい、軍属とは、「もとの陸軍又は海軍部内の有給の嘱託員、雇員、よう人、工員又は鉱員」をいう(二条一項)旨規定していた。この規定内容に成立に争いのない甲第二九、三〇号証、第三四ないし第三九号証(第三五号証は前出)をあわせ考慮すると、援護法は、今次戦争終了時まで恩給法(大正一二年法律第四八号)による年金等の支給を受ける権利を有しながら、前記昭和二一年二月一日勅令六八号によつて恩給の停止、制限を受けていた元軍人、準軍人等及び軍属として戦地勤務を命じられ、戦争又は軍事関連業務に従事していた者等、国との間に特別権力関係もしくは使用関係のあつた者の公務上の負傷、疾病もしくは死亡に関して、これらの者又はその遺族に年金等を支給することにより、国が使用者としての立場から戦争公務災害に対して救済措置を講じ、文官恩給等との不均衡を是正しようとすることを目的として立法されたものと認められるので、その趣旨は、国が使用者としての立場から戦争犠牲者に補償しようとするところにあると解される。他方恩給法による恩給等の支給が退職者の稼動能力の減耗に対する補償という性格を有することは疑いない。

(三) このような、援護法の国家補償的性格並びに恩給法の稼動能力の減耗に対する補償的性格に着目するならば、控訴人らの戦死傷の事実はまさに両法による援護、補償の要件に当たるといつて差支えない。もつとも、援護法、恩給法はいずれも老令、廃疾又は生計の担い手の死亡に対して、その本人又は遺族の生活を援助するという生活保障的性格をも有するのであつて、このような生活保障的部分については、現に日本国籍を有せず、日本国内に居住しない控訴人らが保障の対象にならないのは当然であるが、このことは控訴人らが援護法、恩給法によるすべての給付の対象から除外される理由にはならないといわなければならない。