人種による差別(3) 最判平成17年1月26日・最判平成16年11月29日・札幌地裁平成14年11月11日

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【最判平成17年1月26日・外国人公務員東京都管理職選考受験訴訟上告審判決】

要旨

普通地方公共団体が、原則として日本国籍保有者の就任を想定する「公権力行使等地方公務員」の職と、これに昇任するに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築したうえで、日本国民たる職員に限り管理職に昇任できるとする措置を執ることは、合理的な理由に基づいて日本国民たる職員と在留外国人たる職員とを区別するもので、労働基準法3条にも憲法14条1項にも違反しない。

 

判旨

 (1) 地方公務員法は、一般職の地方公務員(以下「職員」という。)に本邦に在留する外国人(以下「在留外国人」という。)を任命することができるかどうかについて明文の規定を置いていないが(同法19条1項参照)、普通地方公共団体が、法による制限の下で、条例、人事委員会規則等の定めるところにより職員に在留外国人を任命することを禁止するものではない。普通地方公共団体は、職員に採用した在留外国人について、国籍を理由として、給与、勤務時間その他の勤務条件につき差別的取扱いをしてはならないものとされており(労働基準法3条、112条、地方公務員法58条3項)、地方公務員法24条6項に基づく給与に関する条例で定められる昇格(給料表の上位の職務の級への変更)等も上記の勤務条件に含まれるものというべきである。しかし、上記の定めは、普通地方公共団体が職員に採用した在留外国人の処遇につき合理的な理由に基づいて日本国民と異なる取扱いをすることまで許されないとするものではない。また、そのような取扱いは、合理的な理由に基づくものである限り、憲法14条1項に違反するものでもない。

 管理職への昇任は、昇格等を伴うのが通例であるから、在留外国人を職員に採用するに当たって管理職への昇任を前提としない条件の下でのみ就任を認めることとする場合には、そのように取り扱うことにつき合理的な理由が存在することが必要である。

 (2) 地方公務員のうち、住民の権利義務を直接形成し、その範囲を確定するなどの公権力の行使に当たる行為を行い、若しくは普通地方公共団体の重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とするもの(以下「公権力行使等地方公務員」という。)については、次のように解するのが相当である。すなわち、公権力行使等地方公務員の職務の遂行は、住民の権利義務や法的地位の内容を定め、あるいはこれらに事実上大きな影響を及ぼすなど、住民の生活に直接間接に重大なかかわりを有するものである。それゆえ、国民主権の原理に基づき、国及び普通地方公共団体による統治の在り方については日本国の統治者としての国民が最終的な責任を負うべきものであること(憲法1条、15条1項参照)に照らし、原則として日本の国籍を有する者が公権力行使等地方公務員に就任することが想定されているとみるべきであり、我が国以外の国家に帰属し、その国家との間でその国民としての権利義務を有する外国人が公権力行使等地方公務員に就任することは、本来我が国の法体系の想定するところではないものというべきである。

 そして、普通地方公共団体が、公務員制度を構築するに当たって、公権力行使等地方公務員の職とこれに昇任するのに必要な職務経験を積むために経るべき職とを包含する一体的な管理職の任用制度を構築して人事の適正な運用を図ることも、その判断により行うことができるものというべきである。そうすると、普通地方公共団体が上記のような管理職の任用制度を構築した上で、日本国民である職員に限って管理職に昇任することができることとする措置を執ることは、合理的な理由に基づいて日本国民である職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、上記の措置は、労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反するものではないと解するのが相当である。そして、この理は、前記の特別永住者についても異なるものではない。

 (3) これを本件についてみると、前記事実関係等によれば、昭和63年4月に上告人に保健婦として採用された被上告人は、東京都人事委員会の実施する平成6年度及び同7年度の管理職選考(選考種別Aの技術系の選考区分医化学)を受験しようとしたが、東京都人事委員会が上記各年度の管理職選考において日本の国籍を有しない者には受験資格を認めていなかったため、いずれも受験することができなかったというのである。そして、当時、上告人においては、管理職に昇任した職員に終始特定の職種の職務内容だけを担当させるという任用管理を行っておらず、管理職に昇任すれば、いずれは公権力行使等地方公務員に就任することのあることが当然の前提とされていたということができるから、上告人は、公権力行使等地方公務員の職に当たる管理職のほか、これに関連する職を包含する一体的な管理職の任用制度を設けているということができる。

 そうすると、上告人において、上記の管理職の任用制度を適正に運営するために必要があると判断して、職員が管理職に昇任するための資格要件として当該職員が日本の国籍を有する職員であることを定めたとしても、合理的な理由に基づいて日本の国籍を有する職員と在留外国人である職員とを区別するものであり、上記の措置は、労働基準法3条にも、憲法14条1項にも違反するものではない。

 

 

【最判平成16年11月29日・アジア太平洋戦争韓国人犠牲者補償請求事件】

要旨

財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定の締結後、旧日本軍の軍人軍属又はその遺族であったが日本国との平和条約により日本国籍を喪失した大韓民国に在住する韓国人に対して、何らかの措置を講ずることなく、戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項、恩給法9条1項3号の各規定を存置したことは、憲法14条1項に違反しない。

 

判旨

財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和40年条約第27号)の締結後、旧日本軍の軍人軍属又はその遺族であったが日本国との平和条約により日本国籍を喪失した大韓民国に在住する韓国人に対して何らかの措置を講ずることなく戦傷病者戦没者遺族等援護法附則2項、恩給法9条1項3号の各規定を存置したことが憲法14条1項に違反するということができないことは、当裁判所の大法廷判決(最高裁昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁、最高裁昭和37年(あ)第927号同39年11月18日大法廷判決・刑集18巻9号579頁等)の趣旨に徴して明らかである(最高裁平成10年(行ツ)第313号同13年4月5日第一小法廷判決・裁判集民事202号1頁、前掲平成13年11月16日第二小法廷判決、最高裁平成12年(行ツ)第191号同14年7月18日第一小法廷判決・裁判集民事206号833頁参照)。

 

 

【札幌地裁平成14年11月11日・小樽市外国人入浴拒否事件】

要旨

憲法14条1項、国際人権B規約及びあらゆる形態の人種差別の撤廃に関する国際条約は、私法の諸規定の解釈の基準となりうるところ、私人が経営する公衆浴場が外国人一律入浴拒否の方法で行った本件入浴拒否は、不合理な差別であり社会的に許容しうる限度を超えているから違法であり不法行為に当たる。

 

判旨

  (1) 原告らは、被告Aによる本件入浴拒否は、憲法14条1項、国際人権B規約26条、人種差別撤廃条約5条(f)、6条及び公衆浴場法に反して違法である旨主張する。しかし、憲法14条1項は、公権力と個人との間の関係を規律するものであって、原告らと被告Aとの間のような私人相互の間の関係を直接規律するものではないというべきであり、実質的に考えても、同条項を私人間に直接適用すれば、私的自治の原則から本来自由な決定が許容される私的な生活領域を不当に狭めてしまう結果となる。また、国際人権B規約及び人種差別撤廃条約は、国内法としての効力を有するとしても、その規定内容からして、憲法と同様に、公権力と個人との間の関係を規律し、又は、国家の国際責任を規定するものであって、私人相互の間の関係を直接規律するものではない。そして、公衆浴場法は、公衆衛生を保持するために公衆浴場の配置基準を定め、公衆浴場業の営業を許可制とするものであって、本件入浴拒否のような、公衆浴場の公衆衛生の保持とは直接関係のない行為についての適法性を判断する根拠とはなりえない。したがって、原告らの上記主張は採用することができない。

  (2) 私人相互の関係については、上記のとおり、憲法14条1項、国際人権B規約、人種差別撤廃条約等が直接適用されることはないけれども、私人の行為によって他の私人の基本的な自由や平等が具体的に侵害され又はそのおそれがあり、かつ、それが社会的に許容しうる限度を超えていると評価されるときは、私的自治に対する一般的制限規定である民法1条、90条や不法行為に関する諸規定等により、私人による個人の基本的な自由や平等に対する侵害を無効ないし違法として私人の利益を保護すべきである。そして、憲法14条1項、国際人権B規約及び人種差別撤廃条約は、前記のような私法の諸規定の解釈にあたっての基準の一つとなりうる

  これを本件入浴拒否についてみると、本件入浴拒否は、Oの入口には外国人の入浴を拒否する旨の張り紙が掲示されていたことからして、国籍による区別のようにもみえるが、外見上国籍の区別ができない場合もあることや、第2入浴拒否においては、日本国籍を取得した原告Jが拒否されていることからすれば、実質的には、日本国籍の有無という国籍による区別ではなく、外見が外国人にみえるという、人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身に基づく区別、制限であると認められ、憲法14条1項、国際人権B規約26条、人種差別撤廃条約の趣旨に照らし、私人間においても撤廃されるべき人種差別にあたるというべきである。

  ところで、被告Aには、Oに関して、財産権の保障に基づく営業の自由が認められている。しかし、Oは、公衆浴場法による北海道知事の許可を受けて経営されている公衆浴場であり、公衆衛生の維持向上に資するものであって、公共性を有するものといえる。そして、その利用者は、相応の料金の負担により、家庭の浴室にはない快適さを伴った入浴をし、清潔さを維持することができるのであり、公衆浴場である限り、希望する者は、国籍、人種を問わず、その利用が認められるべきである。もっとも、公衆浴場といえども、他の利用者に迷惑をかける利用者に対しては、利用を拒否し、退場を求めることが許されるのは当然である。したがって、被告Aは、入浴マナーに従わない者に対しては、入浴マナーを指導し、それでも入浴マナーを守らない場合は、被告小樽市や警察等の協力を要請するなどして、マナー違反者を退場させるべきであり、また、入場前から酒に酔っている者の入場や酒類を携帯しての入場を断るべきであった。たしかに、これらの方法の実行が容易でない場合があることは否定できないが、公衆浴場の公共性に照らすと、被告Aは、可能な限りの努力をもって上記方法を実行すべきであったといえる。そして、その実行が容易でない場合があるからといって、安易にすべての外国人の利用を一律に拒否するのは明らかに合理性を欠くものというべきである。しかも、入浴を希望した原告らについては、他の利用者に迷惑をかけるおそれは全く窺えなかったものである。

  したがって、外国人一律入浴拒否の方法によってなされた本件入浴拒否は、不合理な差別であって、社会的に許容しうる限度を超えているものといえるから、違法であって不法行為にあたる。

 

 

【最判平成14年7月18日・恩給請求事件】

要旨

恩給法9条1項3号の国籍条項は、昭和27年4月28日の平和条約の発効によって日本国籍を喪失した在日韓国人である旧軍人に、普通恩給を受ける権利を認めないが、日韓請求権協定(昭和40年条約27号)締結後、彼らが日本国からも大韓民国からも何らの補償もされないまま推移したとしても、同条項を存置したことは、いまだ立法府の裁量の範囲を逸脱したとはいえず、本件処分当時においても同条項が憲法14条に違反するに至っていたとはいえない。

 

判旨

 憲法一四条一項は、法の下の平等を定めているが、この規定は合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り、何らこの規定に違反するものでない。このことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである(最高裁昭和三七年(あ)第九二七号同三九年一一月一八日大法廷判決・刑集一八巻九号五七九頁、最高裁昭和三七年(オ)第一四七二号同三九年五月二七日大法廷判決・民集一八巻四号六七六頁等)。

 ところで、我が国は、昭和二七年四月二八日に発効した日本国との平和条約(以下「平和条約」という。)により、朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び欝陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄し(二条(a))、これらの地域の施政を行っている当局及び住民の日本国における財産並びに日本国及びその国民に対するこれらの当局及び住民の請求権(債権を含む。)の処理は、日本国とこれらの当局との間の特別取極の主題とするものとされた(四条(a)前段)。そして、平和条約の発効により、それまで日本の国内法上で朝鮮人としての法的地位を有していた者は、日本国籍を喪失したものと解される。その後、昭和二八年八月一日施行の恩給法の一部を改正する法律(同年法律第一五五号)により、旧軍人等及びその遺族に対する恩給の支給が復活したが、その時点においてこれらの者は日本の国籍を喪失していたから、恩給法九条一項三号により恩給の受給資格を有しないこととなったものである。

 以上の経緯に照らせば、平和条約の発効まで日本の国内法上で朝鮮人としての法的地位を有していた旧軍人等について恩給法九条一項三号の例外を設けず、これらの者が同法の適用から除外されたのは、それまで日本の国内法上で朝鮮人としての法的地位を有していた人々の請求権の処理は平和条約により日本国政府と朝鮮の施政当局との特別取極の主題とされたことから、上記旧軍人等に対する補償問題もまた両政府間の外交交渉によって解決されることが予定されたことに基づくものと解されるのであり、そのことには十分な合理的根拠があるというべきである。したがって、恩給法九条一項三号に基づき、日本の国籍を有する旧軍人等と平和条約の発効により日本の国籍を喪失し大韓民国の国籍を取得することとなった旧軍人等との間に区別が生じたとしても、それは上記のような根拠に基づくものである以上、同号の規定が憲法一四条に違反するものとはいえない。

 また、その後、日本国と大韓民国との間において、平和条約に基づく特別取極に相当するものとして、昭和四〇年六月二二日、財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定(昭和四〇年条約第二七号。以下「日韓請求権協定」という。)が締結されたが、日本国政府は、同協定二条二項(a)に該当する在日韓国人である旧軍人等の補償請求については同協定により解決済みであるとの立場をとり、他方で、大韓民国政府は、同項(a)に該当する在日韓国人である旧軍人等については、大韓民国の国内法による補償の対象から除外した。このため、これらの在日韓国人である旧軍人等に対しては、日本国からも大韓民国からも何らの補償もされないまま推移することとなった。しかしながら、旧軍人等の普通恩給は、旧軍人等の生活を援助するとともにその戦争犠牲ないし戦争損害に対する補償という性質を有するものであるところ、社会保障上の施策において在留外国人をどのように処遇するかについては、国は、特別の条約の存しない限り、当該外国人の属する国との外交関係、変動する国際情勢、国内の政治・経済・社会的諸事情等に照らしながら、その政治的判断によりこれを決定することができるものであるし、戦争犠牲ないし戦争損害に対する補償の要否及び在り方は、事柄の性質上、財政、経済、社会政策等の国政全般にわたった総合的政策判断を待って初めて決し得るものであって、これらについては、国家財政、社会経済、戦争によって国民が被った被害の内容、程度等に関する盗料を基礎とする立法府の裁量的判断にゆだねられたものと解される。そして、日韓請求権協定の締結後の経過や国際情勢の推移等にかんがみると、恩給法九条一項三号の規定を削除することも含めていわゆる在日韓国人の旧軍人等に対して何らかの措置を講ずることとするか否かは、大韓民国やその他の国々との間の高度な政治、外交上の問題であるということができ、その決定に当たっては、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断が要求されるところといわなければならない。これらのことからすれば、いわゆる在日韓国人の旧軍人等に対して何らかの措置を講ずることなく恩給法九条一項三号を存置したとしても、いまだ上記のような立法府の裁量の範囲を逸脱したものとまではいうことができず、本件処分当時においても、同号が憲法一四条に違反するに至っていたものとすることはできない。

 

 

【東京地裁平成14年6月28日】

要旨

外国人による国家賠償請求について相互主義を定めた国家賠償法6条は、日本国民に対して国家賠償による救済を認めない国の国民に対し、日本国が積極的に救済を与える必要がないという衡平の観念に基づいており、また、外国における日本国民の救済拡充にも資するものであり、その趣旨及び内容に一定の合理性が認められるから、憲法17条・14条1項、98条2項に違反しない。

 

判旨

憲法141項は、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定しているところ、この規定の趣旨は、特段の事情の認められない限り、外国人に対しても類推されるべきものと解される(最高裁判所昭和391118日大法廷判決・刑集189579頁)。

  しかしながら、憲法141項は、合理的理由のない差別を禁止する趣旨の規定であって、法律の規定において、各人に存する経済的、社会的その他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その立法趣旨が合理的根拠を欠くとか、立法趣旨に照らして合理的な内容とはいえない区別であって、不合理な差別であると認められる場合でない限り、同項の規定に違反しないというべきである。

  そして、国家賠償法6条が外国人による国家賠償請求について相互の保証を要することとした趣旨は、前記イのとおりであり、その趣旨及び内容に一定の合理性が認められることからすれば、同条の規定が憲法141項に違反するということはできない。