社会的身分による差別(1) 社会的身分の意義

 目次

 

【社会的身分の意義】

【最大判昭和25年10月11日】

憲法一四条一項の解釈よりすれば、親子の関係は、同条項において差別待遇の理由としてかかぐる、社会的身分その他いずれの事由にも該当しない。

 

 

 

【最大判昭和39年5月27日】

要旨

町長が町条例に基づき、過員整理の目的で行なつた町職員に対する待命処分は、五五歳以上の高齢者であることを一応の基準としたうえ、その該当者につきさらに勤務成績等を考慮してなされたものであるときは、憲法第一四条第一項および地方公務員法第一三条に違反しない。

 

判旨

 思うに、憲法一四条一項及び地方公務員法一三条にいう社会的身分とは、人が社会において占める継続的な地位をいうものと解されるから、高令であるということは右の社会的身分に当らないとの原審の判断は相当と思われるが、右各法条は、国民に対し、法の下の平等を保障したものであり、右各法条に列挙された事由は例示的なものであつて、必ずしもそれに限るものではないと解するのが相当であるから、原判決が、高令であることは社会的身分に当らないとの一事により、たやすく上告人の前示主張を排斥したのは、必ずしも十分に意を尽したものとはいえない。しかし、右各法条は、国民に対し絶対的な平等を保障したものではなく、差別すべき合理的な理由なくして差別することを禁止している趣旨と解すべきであるから、事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱をすることは、なんら右各法条の否定するところではない。

 

 

【東京高決平成5年6月23日】

要旨

嫡出でない子の相続分を嫡出である子の相続分の二分の一とする民法九〇〇条四号ただし書の規定は憲法一四条一項に違反する。

 

判旨

 二 当裁判所の判断

1 当裁判所は、民法九〇〇条四号但書前段の規定は、憲法一四条一項の規定に違反し、無効であると解する。その理由は、次のとおりである。

 (一) 憲法一四条一項所定の「社会的身分」とは、出生によって決定される社会的な地位又は身分をいうと解されるところ、嫡出子か嫡出子でないかは、本人を懐胎した母が、本人の父と法律上の婚姻をしているかどうかによって決定される(民法七七二条)事柄であるから、子の立場から見れば、正に出生によって決定される社会的な地位又は身分ということができる。そうだとすると、民法九〇〇条四号但書前段の規定は、嫡出子と非嫡出子とを相続分において区別して取り扱うものであることが明らかであるから、憲法一四条一項にいう「社会的身分による経済的又は社会的関係における差別的取扱い」に当たるというべきである。

 そして、憲法一四条一項の法の下における平等の要請は、事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでないかぎり、差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解すべきであるから、民法九〇〇条四号但書前段の規定による嫡出子と非嫡出子との間の差別的な取扱いが、はたして合理的な根拠に基づくものであるかどうかが問われることになる。

 (二) ところで、社会的身分を理由とする差別的取扱いは、個人の意思や努力によってはいかんともしがたい性質のものであり、個人の尊厳と人格価値の平等の原理を至上のものとした憲法の精神(憲法一三条、二四条二項)にかんがみると、当該規定の合理性の有無の審査に当たっては、立法の目的(右規定所定の差別的な取扱いの目的)が重要なものであること、及びその目的と規制手段との間に事実上の実質的関連性があることの二点が論証されなければならないと解される。 そこで、以下右の二点について検討を加える。

 (三) 立法の目的の重要性について

 民法九〇〇条四号但書前段の立法の目的は、正当な婚姻を奨励尊重することにあり、いいかえれば、適法な婚姻に基づく家族関係を保護することにあると説かれているが、ここで念頭に置かれているのは、いわゆる「妾の子」に対して「妻の子」の利益を保護することにより、結果的に法律婚を尊重しようという旧家族制度に由来する沿革的思想にほかならない。

 もっとも、右規定の立案に際しては、憲法の原則である個人の尊厳と平等の立場から問題が提起されたが、他方では、非嫡出子に相続権を与えること自体に対する反対論があり、正当の婚姻を重んずるという建前から旧民法の規定による差別的取扱いがいわば妥協の産物としてそのまま存置される形となった。そして、右のような賛否両論を踏まえて、民法の一部を改正する法律(昭和二二年法律第二二二号)が成立するに際しては、その審議の経緯にかんがみ、衆議院において、「本法は、可及的速やかに、将来において更に改正する必要があることを認める。」旨の附帯決議がなされた。

 その後、昭和五四年七月一七日付けで法務省民事局参事官室から公表された相続に関する民法改正要綱試案の二において、非嫡出子の相続分の平等化が図られたが、当時の世論調査の結果等にかんがみ、時期尚早としてこの部分の改正は見送られた経緯がある。なお、右試案と同時に公表された説明中には、非嫡出子の相続分の平等化を図る根拠として、次のとおり述べられている。

 「試案は、非嫡出子は、嫡出でないことについてみずから何の責任もないのに、現行法のように、その相続分を、親を同じくする嫡出子の二分の一として区別することは、法の下の平等の理念に照らし問題があること、及び両者の相続分を同等としても、配偶者の相続分には変わりがなく、法律婚主義と直接抵触するものでもないこと等の理由により、非嫡出子の相続分は、嫡出子の相続分と同等とするのが適当であるとする意見によったものである。」

 当裁判所は、適法な婚姻に基づく家族関係を保護するという立法の目的それ自体は、憲法二四条の趣旨に照らし、現今においてもなお、尊重されるべきであり、これが重要なものであることを肯定する。

 しかしながら、嫡出子と非嫡出子との相続分を同等としても、これにより配偶者の相続分はなんらの影響を受けるものではないし、仮りに、配偶者の側に実質的な不平等が生ずることがあるにしても、寄与分の制度を活用することにより是正可能であることが留意されるべきである(なお、生みの親の心情からしても、遺産の分配につき嫡出子と非嫡出子との間に分け隔てされることを当然とする者はいないのではないかと考えられるし、相続制度の対極にある父母に対する扶養の観点からしても、嫡出子も非嫡出子も双方平等に義務を負っていることが指摘され得る。)。

 もとより、適法な婚姻に基づく家族関係の保護が、尊重されるべき理念であることはいうまでもないが、他方で、非嫡出子の個人の尊厳も等しく保護されなければならないのであって、後者の犠牲の下で前者を保護するような立法は極力回避すべきであろう(因みに、本件記録によれば、抗告人は非嫡出子であるという理由だけで、これまで屡々他人から白眼視されただけでなく、本件の係争法条である民法九〇〇条四号但書前段を盾に相続関係人から極めて冷ややかな遇いを受けたことが認められる。そして、抗告人と同様の立場にある者の多くが、右と同じような仕打ちを受けていることは、半ば公知の事実でもあることからすれば、まさに、同法条は、結果的にしろ、非嫡出子に対する差別心を人々の心に生じさせ、かつ助長する役割を果しているともいえるのであり、このような現実は軽視されてよいとは決していえない。)。

 そして、この点に関する近時の諸外国における立法の動向を見ると、非嫡出子について権利の平等化を強く志向する傾向にあることが窺われ、さらに、国際連合による「市民的及び政治的権利に関する国際規約」二四条一項の規定の精神及び我が国において未だ批准していないものの、近々批准することが予定されている「児童の権利に関する条約」二条二項の精神等にかんがみれば、適法な婚姻に基づく家族関係の保護という理念と非嫡出子の個人の尊厳という理念は、その双方が両立する形で問題の解決が図られなければならないと考える。

 (四) 目的と規制手段との間の実質的関連性について

 民法九〇〇条四号但書前段の規制が非嫡出子の相続分を嫡出子のそれの二分の一とすることにより、すなわち、妻の子の利益を妾の子のそれよりも重視することにより、結果的に法律婚家族の利益が一定限度で保護されていること自体は、否定しがたい。その意味では、右の規制と立法目的との間には、一応の相関関係があるといえる。

 しかしながら、右の規制があるからといって、婚外子の出現を抑止することはほとんど期待できない上、非嫡出子から見れば、父母が適法な婚姻関係にあるかどうかはまったく偶然なことに過ぎず、自己の意思や努力によってはいかんともしがたい事由により不利益な取扱いを受ける結果となることが留意されるべきである。これは、たとえていえば、正に「親の因果が子に報い」式の仕打ちであり、人は自己の非行のみによって罰又は不利益を受けるという近代法の基本原則にも背反していることが見逃されてはならない。

 次に、民法九〇〇条四号但書前段の規制は、一律に非嫡出子の相続分を嫡出子のそれの二分の一としているから、たとえば、母が法律婚による嫡出子を儲けて離婚した後、再婚し、子を儲けた場合に、再婚が事実上の婚姻にすぎなかったときは、母の相続に関しても、嫡出子と非嫡出子とが差別される結果となり、同号但書前段が本来意図している法律婚家族の保護(その実質がいわゆる妾の子よりも妻の子を保護することにあることは前叙のとおりである)を越えてしまう結果を招来すること、このような場合には、いいかえれば、規制の範囲が立法の目的に対して広きにすぎることが指摘されなければならない。

 以上のとおり、民法九〇〇条四号但書前段の規制は、目的に対して広すぎるという意味で正確性に欠けるだけではなく、婚外子の出現を抑止することに関しほとんど無力であるという意味で、適法な婚姻に基づく家族関係の保護という立法目的を達成するうえで事実上の実質的関連性を有するといえるかどうかも、はなはだ疑わしいといわざるを得ないのである。

 (五) そうだとすると、民法九〇〇条四号但書前段の差別的取扱いは、必ずしも合理的な根拠に基づくものとはいい難いから、憲法一四条一項の規定に違反するものと判断せざるを得ない。

 2 以上の見地に立って原審判の当否を検討するに、原審判が相続人の相続分を算定するに当たり、民法九〇〇条四号但書前段の規定を適用したのは違法であるから、原審判中の該当部分を以下のとおり改める。

 

 

【最判昭和30年8月18日 業務上横領】

要旨

刑法二五三条の業務上他人の物を占有するということは、犯罪者の属性による刑法上の身分であるが、憲法一四条にいわゆる社会的身分と解することはできない。

 

判旨

刑法二五三条の業務上横領罪につき同二五二条の単純横領罪に比しその刑が加重されているのは業務上占有する他人の物を横領することが単純横領に比し反社会性が顕著で犯情が重いとされるからである。そして業務上他人の物を占有するということは、犯罪者の属性による刑法上の身分であるが、憲法一四条にいわゆる社会的身分と解することはできない。

 

 

【最大判昭和26年8月1日・常習賭博】

要旨

刑法一八六条の賭博常習者は、憲法一四条にいわゆる「社会的身分」ではない。

 

判旨

 刑法一八六条の常習賭博罪が同一八五条の単純賭博罪に比し、賭博常習者という身分によつて刑を加重していることは所論のとおりである。そして右加重の理由は賭博を反覆する習癖にあるのであつて、即ち常習賭博は単純賭博に比しその反社会性が顕著で、犯情が重いとされるからである。そして、賭博常習者というのは、賭博を反覆する習癖・即ち犯罪者の属性による刑法上の身分であるが、憲法一四条にいわゆる社会的身分と解することはできない。されば刑法一八六条の規定をもつて憲法一四条に違反するものであるとの論旨は到底これを採用することができない。

 

 

【最判昭和24年6月16日 傷害詐欺事件】

要旨

判決中に「被告人は土木請負業関根組の最高幹部であつた」と判示したからといって、それは本人の経歴を示したものにすぎず、直ちに被告人に対してその社会的身分または門地によって差別的取扱いをしたものと解することはできない。

 

判旨

「被告人は土木請負業関根組の最高幹部であつたが」の判示は単に被告人の経歴を示したに過ぎないもので、所論のようにこれを判決の前提又は背景としたものでないこと明白であるから、かような判示をしたからといつて、直に原判決が被告人に対してその身分門地によつて差別的取扱をしたとはいえない。