最大判平成17年9月14日 (在外国民選挙権訴訟)(2)

 

憲法目次Ⅰ

憲法目次Ⅱ

憲法目次Ⅲ

憲法目次Ⅳ

 第3 確認の訴えについて

 1 本件の主位的確認請求に係る訴えのうち,本件改正前の公職選挙法が別紙当事者目録1記載の上告人らに衆議院議員の選挙及び参議院議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えは,過去の法律関係の確認を求めるものであり,この確認を求めることが現に存する法律上の紛争の直接かつ抜本的な解決のために適切かつ必要な場合であるとはいえないから,確認の利益が認められず,不適法である。

 2 また,本件の主位的確認請求に係る訴えのうち,本件改正後の公職選挙法が別紙当事者目録1記載の上告人らに衆議院小選挙区選出議員の選挙及び参議院選挙区選出議員の選挙における選挙権の行使を認めていない点において違法であることの確認を求める訴えについては,他により適切な訴えによってその目的を達成することができる場合には,確認の利益を欠き不適法であるというべきところ,本件においては,後記3のとおり,予備的確認請求に係る訴えの方がより適切な訴えであるということができるから,上記の主位的確認請求に係る訴えは不適法であるといわざるを得ない。 3 本件の予備的確認請求に係る訴えは,公法上の当事者訴訟のうち公法上の法律関係に関する確認の訴えと解することができるところ,その内容をみると,公職選挙法附則8項につき所要の改正がされないと,在外国民である別紙当事者目録1記載の上告人らが,今後直近に実施されることになる衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において投票をすることができず,選挙権を行使する権利を侵害されることになるので,そのような事態になることを防止するために,同上告人らが,同項が違憲無効であるとして,当該各選挙につき選挙権を行使する権利を有することの確認をあらかじめ求める訴えであると解することができる。 選挙権は,これを行使することができなければ意味がないものといわざるを得ず,侵害を受けた後に争うことによっては権利行使の実質を回復することができない性質のものであるから,その権利の重要性にかんがみると,具体的な選挙につき選挙権を行使する権利の有無につき争いがある場合にこれを有することの確認を求める訴えについては,それが有効適切な手段であると認められる限り,確認の利益を肯定すべきものである。そして,本件の予備的確認請求に係る訴えは,公法上の法律関係に関する確認の訴えとして,上記の内容に照らし,確認の利益を肯定することができるものに当たるというべきである。なお,この訴えが法律上の争訟に当たることは論をまたない。

 そうすると,【要旨3】本件の予備的確認請求に係る訴えについては,引き続き在外国民である同上告人らが,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあることの確認を請求する趣旨のものとして適法な訴えということができる。

 

 4 そこで,本件の予備的確認請求の当否について検討するに,前記のとおり,公職選挙法附則8項の規定のうち,在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定する部分は,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違反するもので無効であって,【要旨4】別紙当事者目録1記載の上告人らは,次回の衆議院議員の総選挙における小選挙区選出議員の選挙及び参議院議員の通常選挙における選挙区選出議員の選挙において,在外選挙人名簿に登録されていることに基づいて投票をすることができる地位にあるというべきであるから,本件の予備的確認請求は理由があり,更に弁論をするまでもなく,これを認容すべきものである

 

 

 第4 国家賠償請求について

 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら,【要旨5】立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである。最高裁昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁は,以上と異なる趣旨をいうものではない。

 

 在外国民であった上告人らも国政選挙において投票をする機会を与えられることを憲法上保障されていたのであり,この権利行使の機会を確保するためには,在外選挙制度を設けるなどの立法措置を執ることが必要不可欠であったにもかかわらず,前記事実関係によれば,昭和59年に在外国民の投票を可能にするための法律案が閣議決定されて国会に提出されたものの,同法律案が廃案となった後本件選挙の実施に至るまで10年以上の長きにわたって何らの立法措置も執られなかったのであるから,このような著しい不作為は上記の例外的な場合に当たり,このような場合においては,過失の存在を否定することはできない。このような立法不作為の結果,上告人らは本件選挙において投票をすることができず,これによる精神的苦痛を被ったものというべきである。したがって,本件においては,上記の違法な立法不作為を理由とする国家賠償請求はこれを認容すべきである。

 そこで,上告人らの被った精神的損害の程度について検討すると,本件訴訟において在外国民の選挙権の行使を制限することが違憲であると判断され,それによって,本件選挙において投票をすることができなかったことによって上告人らが被った精神的損害は相当程度回復されるものと考えられることなどの事情を総合勘案すると,損害賠償として各人に対し慰謝料5000円の支払を命ずるのが相当である。そうであるとすれば,本件を原審に差し戻して改めて個々の上告人の損害額について審理させる必要はなく,当審において上記金額の賠償を命ずることができるものというべきである。【要旨6】そこで,上告人らの本件請求中,損害賠償を求める部分は,上告人らに対し各5000円及びこれに対する平成8年10月21日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し,その余は棄却することとする。

 

 第5 結論

 以上のとおりであるから,本件の主位的確認請求に係る各訴えをいずれも却下すべきものとした原審の判断は正当として是認することができるが,予備的確認請求に係る訴えを却下すべきものとし,国家賠償請求を棄却すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。そして,以上に説示したところによれば,本件につき更に弁論をするまでもなく,上告人らの予備的確認請求は理由があるから認容すべきであり,国家賠償請求は上告人らに対し各5000円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は棄却すべきである。論旨は上記の限度で理由があり,条約違反の論旨について判断するまでもなく,原判決を主文第1項のとおり変更すべきである。 よって,裁判官横尾和子,同上田豊三の反対意見,判示第4についての裁判官泉徳治の反対意見があるほか,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官福田博の補足意見がある。