最大判平成17年9月14日 (在外国民選挙権訴訟)(4)反対意見

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憲法目次Ⅱ

憲法目次Ⅲ

憲法目次Ⅳ

 私たちは,本件上告をいずれも棄却すべきであると考えるが,その理由は次のとおりである。 1 憲法は,その前文において,「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し,・・・ここに主権が国民に存することを宣言し,この憲法を確定する。そもそも国政は,国民の厳粛な信託によるものであつて,その権威は国民に由来し,その権力は国民の代表者がこれを行使し,その福利は国民がこれを享受する。」として,国民主権主義を宣言している。 これを受けて,「公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利である。」(憲法15条1項),「公務員の選挙については,成年者による普通選挙を保障する。」(同条3項)と規定し,公務員の選挙権が国民固有の権利であることを明確にしている。 一方,国会が衆議院及び参議院の両議院から構成されること(憲法42条),両議院は全国民を代表する選挙された議員で組織されること(憲法43条1項)を規定するとともに,両議院の議員の定数,議員及びその選挙人の資格,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は,これを法律で定めるべきものとし(憲法43条2項,44条,47条),両議院の議員の各選挙制度の仕組みについての具体的な決定を原則として国会の裁量にゆだねているのである。もっとも,議員及び選挙人の資格を法律で定めるに当たっては,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によって差別してはならないことを明らかにしている(憲法44条ただし書)。 そして,国会が両議院の議員の各選挙制度の仕組みを具体的に決定するに当たっては,選挙人である国民の自由に表明する意思により選挙が混乱なく,公明かつ適正に行われるよう,すなわち公正,公平な選挙が混乱なく実現されるために必要とされる事項を考慮しなければならないのである。我が国の主権の及ばない国や地域(そこには様々な国や地域が存在する。)に居住していて,我が国内の市町村の区域内に住所を有していない国民(在外国民。在外国民にも二重国籍者や海外永住者などいろいろな種類の人たちがいる。)も,国民である限り選挙権を有していることはいうまでもないが,そのような在外国民が選挙権を行使する,すなわち投票をするに当たっては,国内に居住する国民の場合に比べて,様々な社会的,技術的な制約が伴うので,在外国民にどのような投票制度を用意すれば選挙の公正さ,公平さを確保し,混乱のない選挙を実現することができるのかということも国会において正当に考慮しなければならない事項であり,国会の裁量判断にゆだねられていると解すべきである。  換言すれば,両議院の議員の各選挙制度をどのような仕組みのものとするのか,すなわち,選挙区として全国区制,中選挙区制,小選挙区制,比例代表制のうちいずれによるのかあるいはいずれかの組合せによるのか,組合せによるとしてどのような方法によるのか,各選挙区の内容や区域・区割りはどうするのか,議員の総定数や選挙区への定数配分をどうするのか,選挙人名簿制度はどのようなものにするのか,投票方式はどうするのか,候補者の政見等を選挙人へ周知させることも含めて選挙運動をどのようなものとするのかなどなど,選挙人の自由な意思が公明かつ適正に選挙に反映され,混乱のない公正,公平な選挙が実現されるよう,選挙制度の仕組みに関する様々な事柄を選択し,決定することは国会に課せられた責務である。そして,そのような選挙制度の仕組みとの関連において,また,様々な社会的,技術的な制約が伴う中にあって,我が国の主権の及ばない国や地域に居住している在外国民に対し,どのような投票制度を用意すれば選挙の公正さ,公平さを確保し,混乱のない選挙を実現することができるのかということも,国会において判断し,選択し,決定すべき事柄であり,国会の裁量判断にゆだねられた事項である(この点,我が国の主権の及ぶ我が国内に居住している国民の選挙権の行使を制限する場合とは趣を異にするといわなければならない。我が国内に居住している国民の選挙権又はその行使を制限することは,自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として,原則として許されず,国民の選挙権又はその行使を制限するためには,そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならず,そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り,上記のやむを得ない事由があるとはいえず,このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは,憲法に違反するといわざるを得ない,とする多数意見に同調するものである。)。 2 両議院の議員の各選挙制度の仕組みについては,公職選挙法がこれを定めている。従来,選挙人名簿に登録されていない者及び登録されることができない者は投票することができないとされ,選挙人名簿への登録は,当該市町村の区域内に住所を有する年齢満20年以上の国民で,その者に係る当該市町村の住民票が作成された日から引き続き3か月以上当該市町村の住民基本台帳に記録されている者について行うこととされており,在外国民は,我が国のいずれの市町村においても住民基本台帳に記録されないため,両議院議員の選挙においてその選挙権を行使する,すなわち投票をすることができなかった。 平成6年の公職選挙法の一部改正により,それまで長年にわたり中選挙区制の下で行われていた衆議院議員の選挙についても,小選挙区比例代表並立制が採用されることになった。そして,平成10年法律第47号による公職選挙法の一部改正により,新たに在外選挙人名簿の制度が創設され,在外国民に在外選挙人名簿に登録される途を開き,これに登録されている者は,両議院議員の選挙において投票することができるようになった。もっとも,上記改正後の公職選挙法附則8項において,当分の間は,両議院の比例代表選出議員の選挙に限ることとされたため,衆議院小選挙区選出議員及び参議院選挙区選出議員の選挙はその対象とならないこととされている。このように両議院の比例代表選出議員の選挙に限って在外国民に投票の機会を認めたことの理由につき,12日ないし17日という限られた選挙運動期間中に在外国民へ候補者個人に関する情報を伝達することが極めて困難であること等を勘案したものであると説明されている。 3 上記のとおり,我が国においては,従来,在外国民には両議院議員の選挙に関し投票の機会が与えられていなかったところ,平成10年の改正により,両議院の比例代表選出議員の選挙について投票の機会を与えることにし,衆議院小選挙区選出議員及び参議院選挙区選出議員の選挙については,在外国民への候補者個人に関する情報を伝達することが極めて困難であること等を勘案して,当分の間,投票の機会を与えないこととしたというのである。 国会のこれらの選択は,選挙制度の仕組みとの関連において在外国民にどのような投票制度を用意すれば選挙の公正さ,公平さを確保し,混乱のない選挙を実現することができるのかという,国会において正当に考慮することのできる事項を考慮した上での選択ということができ,正確な候補者情報の伝達,選挙人の自由意思による投票環境の確保,不正の防止等に関し様々な社会的,技術的な制約の伴う中でそれなりの合理性を持ち,国会に与えられた裁量判断を濫用ないし逸脱するものではなく,平成10年に至って新たに在外選挙人名簿の制度を創設し,それまではこのような制度を設けていなかったことをも含めて,いまだ上告人らの主張する憲法の各規定や条約に違反するものではなく,違憲とはいえないと解するのが相当である。 4 私たちは,本件の主位的確認請求に係る訴えは不適法であり,予備的確認請求に係る訴えは適法であるとする多数意見に同調するものであるが,公職選挙法附則8項の規定のうち在外選挙制度の対象となる選挙を当分の間両議院の比例代表選出議員の選挙に限定している部分も違憲とはいえないと解するので,本件の予備的確認請求は理由がなく,これを棄却すべきものと考える。本件の予備的確認請求に係る訴えを却下すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があることになるが,本件の予備的確認請求を求めている上告人らからの上告事件である本件においては,いわゆる不利益変更禁止の原則により,この部分に係る本件上告を棄却すべきである。 また,在外選挙制度を設けなかったことなどの立法上の不作為が違憲であることを理由とする国家賠償請求については,そのような不作為は違憲ではないと解するので,理由がなく,その請求を棄却すべきであるところ,原審はこれと結論を同じくするものであるから,この部分に関する本件上告も棄却すべきである。 判示第4についての裁判官泉徳治の反対意見は,次のとおりである。 私は,多数意見のうち,国家賠償請求の認容に係る部分に反対し,それ以外の部分に賛同するものである。多数意見は,公職選挙法が,本件選挙当時,在外国民の投票を認めていなかったことにより,上告人らが本件選挙において選挙権を行使することができなかったことによる精神的苦痛を慰謝するため,国は国家賠償法に基づき上告人らに各5000円の慰謝料を支払うべきであるという。しかし,私は,上告人らの上記精神的苦痛は国家賠償法による金銭賠償になじまないので,本件選挙当時の公職選挙法の合憲・違憲について判断するまでもなく,上告人らの国家賠償請求は理由がないものとて棄却すべきであると考える。 国民が,憲法で保障された基本的権利である選挙権の行使に関し,正当な理由なく差別的取扱いを受けている場合には,民主的な政治過程の正常な運営を維持するために積極的役割を果たすべき裁判所としては,国民に対しできるだけ広く是正・回復のための途を開き,その救済を図らなければならない。 本件国家賠償請求は,金銭賠償を得ることを本来の目的とするものではなく,公職選挙法が在外国民の選挙権の行使を妨げていることの違憲性を,判決理由の中で認定することを求めることにより,間接的に立法措置を促し,行使を妨げられている選挙権の回復を目指しているものである。上告人らは,国家賠償請求訴訟以外の方法では訴えの適法性を否定されるおそれがあるとの思惑から,選挙権回復の方法としては迂遠な国家賠償請求を,あえて付加したものと考えられる。 一般論としては,憲法で保障された基本的権利の行使が立法作用によって妨げられている場合に,国家賠償請求訴訟によって,間接的に立法作用の適憲的な是正を図るという途も,より適切な権利回復のための方法が他にない場合に備えて残しておくべきであると考える。また,当該権利の性質及び当該権利侵害の態様により,特定の範囲の国民に特別の損害が生じているというような場合には,国家賠償請求訴訟が権利回復の方法としてより適切であるといえよう。 しかしながら,本件で問題とされている選挙権の行使に関していえば,選挙権が基本的人権の一つである参政権の行使という意味において個人的権利であることは疑いないものの,両議院の議員という国家の機関を選定する公務に集団的に参加するという公務的性格も有しており,純粋な個人的権利とは異なった側面を持っている。しかも,立法の不備により本件選挙で投票をすることができなかった上告人らの精神的苦痛は,数十万人に及ぶ在外国民に共通のものであり,個別性の薄いものである。したがって,上告人らの精神的苦痛は,金銭で評価することが困難であり,金銭賠償になじまないものといわざるを得ない。英米には,憲法で保障された権利が侵害された場合に,実際の損害がなくても名目的損害(nominal damages)の賠償を認める制度があるが,我が国の国家賠償法は名目的損害賠償の制度を採用していないから,上告人らに生じた実際の損害を認定する必要があるところ,それが困難なのである。 そして,上告人らの上記精神的苦痛に対し金銭賠償をすべきものとすれば,議員定数の配分の不均衡により投票価値において差別を受けている過小代表区の選挙人にもなにがしかの金銭賠償をすべきことになるが,その精神的苦痛を金銭で評価するのが困難である上に,賠償の対象となる選挙人が膨大な数に上り,賠償の対象となる選挙人と,賠償の財源である税の負担者とが,かなりの部分で重なり合うことに照らすと,上記のような精神的苦痛はそもそも金銭賠償になじまず,国家賠償法が賠償の対象として想定するところではないといわざるを得ない。金銭賠償による救済は,国民に違和感を与え,その支持を得ることができないであろう。  当裁判所は,投票価値の不平等是正については,つとに,公職選挙法204条の選挙の効力に関する訴訟で救済するという途を開き,本件で求められている在外国民に対する選挙権行使の保障についても,今回,上告人らの提起した予備的確認請求訴訟で取り上げることになった。このような裁判による救済の途が開かれている限り,あえて金銭賠償を認容する必要もない。 前記のとおり,選挙権の行使に関しての立法の不備による差別的取扱いの是正について,裁判所は積極的に取り組むべきであるが,その是正について金銭賠償をもって臨むとすれば,賠償対象の広範さ故に納税者の負担が過大となるおそれが生じ,そのことが裁判所の自由な判断に影響を与えるおそれもないとはいえない。裁判所としては,このような財政問題に関する懸念から解放されて,選挙権行使の不平等是正に対し果敢に取り組む方が賢明であると考える。