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外国人の人権(7)外国渡航の自由・最大判昭和33年9月10日・最大判昭和32年12月25日・最判平成4年11月16日

 

 

【最大判昭和33年9月10日】

要旨

一 旅券法第一三条第一項第五号は、外国旅行の自由に対し、公共の福祉のため合理的な制限を定めたもので、憲法第二二条第二項に違反しない。

二 原審認定の事実関係(原判決参照)、特に占領治下我国の当面する国際情勢の下において、外務大臣が上告人らのモスコー国際経済会議への参加を旅券法第一三条第一項第五号にあたると判断してなした旅券発給拒否の処分は、違法とはいえない。

 

判旨

憲法二二条二項の「外国に移住する自由」には外国へ一時旅行する自由を

も含むものと解すべきであるが、外国旅行の自由といえども無制限のままに許され

るものではなく、公共の福祉のために合理的な制限に服するものと解すべきである。

そして旅券発給を拒否することができる場合として、旅券法一三条一項五号が「著

しく且つ直接に日本国の利益又は公安を害する行為を行う虞があると認めるに足り

る相当の理由がある者」と規定したのは、外国旅行の自由に対し、公共の福祉のた

めに合理的な制限を定めたものとみることができ(る)。

旅券法一三条一項五号は、公共の福祉のために外国旅行の自由を合理的に制限したものと解すべきであることは、既に述べたとおりであつて、日本国の利益又は公安を害する行為を将来行う虞れある場合においても、なおかつその自由を制限する必要のある場合のありうることは明らかであるから、同条をことさら所論のごとく「明白かつ現在の危険がある」場合に限ると解すべき理由はない。

 

【最大判昭和32年12月25日】

要旨

一 出入国管理令第二五条は、憲法第二二条第二項に違反しない。

二 被告人が勾留状の執行により未決勾留中、他の事件の確定判決により懲役刑の執行を受けるに至つたときは、懲役刑の執行と競合する未決勾留日数を本刑に算入することは違法である。

 

判旨

憲法二二条二項は「何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない」と規定しており、ここにいう外国移住の自由は、その権利の性質上外国人に限つて保障しないという理由はない。次に、出入国管理令二五条一項は、本邦外の地域におもむく意図をもつて出国しようとする外国人は、その者が出国する出入国港において、入国審査官から旅券に出国の証印を受けなければならないと定め、同二項において、前項の外国人は、旅券に証印を受けなければ出国してはならないと規定している。右は、出国それ自体を法律上制限するものではなく、単に、出国の手続に関する措置を定めたものであり、事実上かゝる手続的措置のために外国移住の自由が制限される結果を招来するような場合があるにしても、同令一条に規定する本邦に入国し、又は本邦から出国するすべての人の出入国の公正な管理を行うという目的を達成する公共の福祉のため設けられたものであつて、合憲性を有するものと解すべきである。

 

【最大判昭和32年6月19日】

要旨

一 憲法第二二条は外国人の日本国に入国することについてなにら規定していないものというべきである。

二 外国人登録令第三条、第一二条は憲法第二二条に違反しない。

 

判旨

 所論は、憲法二二条は当然に外国人が日本国に入国する自由をも保障しているものと解すべきであるから、外国人登録令三条、一二条は、憲法二二条に違反する旨主張する。

 よつて案ずるに、憲法二二条一項には、何人も公共の福祉に反しない限り居住・移転の自由を有する旨規定し、同条二項には、何人も外国に移住する自由を侵されない旨の規定を設けていることに徴すれば、憲法二二条の右の規定の保障するところは、居住・移転及び外国移住の自由のみに関するものであつて、それ以外に及ばず、しかもその居住・移転とは、外国移住と区別して規定されているところから見れば、日本国内におけるものを指す趣旨であることも明らかである。そしてこれらの憲法上の自由を享ける者は法文上日本国民に局限されていないのであるから、外国人であつても日本国に在つてその主権に服している者に限り及ぶものであることも、また論をまたない。されば、憲法二二条は外国人の日本国に入国することについてはなにら規定していないものというべきであつて、このことは、国際慣習法上、外国人の入国の許否は当該国家の自由裁量により決定し得るものであつて、特別の条約が存しない限り、国家は外国人の入国を許可する義務を負わないものであることと、その考えを同じくするものと解し得られる。従つて、所論の外国人登録令の規定の違憲を主張する論旨は、理由がないものといわなければならない。

 

 

【最判平成4年11月16日】

要旨

我が国に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されていない。

 

判旨

 我が国に在留する外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されている

ものでないことは、当裁判所大法廷判決(最高裁昭和二九年(あ)第三五九四号同

三二年六月一九日判決・刑集一一巻六号一六六三頁、昭和五〇年(行ツ)第一二〇

号同五三年一〇月四日判決・民集三二巻七号一二二三頁)の趣旨に徴して明らかで

ある。

 

 

【東京高裁 昭和43年12月18日】

要旨

1、再入国許可申請書の旅行日程の最終日が経過しても、右日程に従わなければ旅行(祖国訪問)の意義がないということでなければ、申請に対する不許可処分取消しを求める訴えの利益がある。

2、一時的海外旅行の自由は、憲法22条1項によつて保証され、日本国内に存住する外国人は同本人と同様、公共の福祉に反しない限りこの自由を享有する権利がある。

3、北朝鮮の政府を承認していないこと、北朝鮮からの再入国を許可すると韓国との修交上問題が起リ得る虞があることは、北朝鮮からの再入国を許可しない正当の理由とはならない。

 

判旨

日本国民の基本的自由権の一つである一時的海外旅行の自由は、憲法第二二条第一項によつて保障されると解する(同条第二項によるとしても公共の福祉による制限をうけると解する限りは結論において等しい。)が、日本国の領土内に存在する外国人は、日本国の主権に服すると共にその身体、財産、基本的自由等の保護をうける権利があることは明らかであるから、日本国民が憲法第二二条第一項(または第二項)によつて享受すると同様に、公共の福祉に反しない限度で海外旅行の自由を享有する権利があるといつてよい(同条項が在留外国人に対しても直接適用があると解すればなおさらのことである。)。然して、被控訴人らが、ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く外務省関係諸命令の措置に関する法律第二条第六項によつてわが国に在留する権限のある者であることは争がなく、その経歴、家族構成が原判決事実摘示のとおりであることは原審の被控訴人許本人尋問の結果から認められるところであり、ただ被控訴人らが朝鮮民主主義人民共和国の公民であるため、現時点では大韓民国国民の有するような永住許可申請権(昭和四〇年法律第一四六号による。)を有しないけれども、在留期間の制限をうけない点では、永住権者と同視すべき外国人であるから、被控訴人らは海外旅行に関して、日本国民と同様な自由の保障を与えられているということができる。本件再入国許可申請の実質は海外旅行の許可の申請であるから、本件申請に対して出入国管理令第二六条による許否を決するに当つては、右に述べた趣旨に則ることが要請されるのであつて、この点は原審の判断(判決理由二1末尾「上記管理令の条項は」以下)と帰結するところが等しい。ところで控訴人は、不許可処分の理由として、(一)北朝鮮にはわが国が承認した政府がなく国交が開かれていないこと、(ニ)本件申請を許可することはわが国と大韓民国との修交上および在日朝鮮人の管理上国益に沿わない結果となることを挙示する。

わが国と大韓民国とは国交を開いていて、在日同国民の法的地位等についてはすでに協定が成立し、これに伴う特別法も施行されているが、わが国と朝鮮民主主義人民共和国との間には国交がなく、在日同国公民については右のような協定が成立していないこと、右両国の国民の間に、国境線をはさんで時に不穏の動きがあることが報道され、またわが国内でも時に大韓民国居留民団と在日朝鮮人総聯合会との各構成員間の確執が報ぜられることは、すべて公知のことがらである。かような事情に着目すれば、本件申請を許可した後の国際および国内の事態について、控訴人が何らかの危惧をいだくことは故なしとせず、それ故にこそ控訴人は政策として申請を許可しなかつたものと考えられる。しかしながらわが国の国益というものは、究極においては憲法前文にあるとおり、いずれの国の国民とも協和することの中に見出すべきものであるから、一国との修交に支障を生ずる虞があるからといつて、他の一国の国民が本来享有する自由権を行使することをもつて、ただちにわが国の国益を害するものと断定することは極めて偏頗であり誤りといわなければならない。すなわち、元来政府の政策は、国益や公共の福祉を目標として企画実施されるべきことは多言を要しないが、政策と公共の福祉とは同義ではないから、或人々が本来享有する海外旅行の自由を行使することが、たとえ政府の当面の政策に沿わないものであつても、政策に沿わないということのみで右自由権の行使が公共の福祉に反するとの結論は導かれないのである。そうして本件では、今後の事態については具体的な主張立証もないから、それは憶測の域を出ないものと思われ、わが国に対する明白な危険が予知されているとは認められないので、結局被控訴人らの海外旅行が、(旅券法第一三条の表現を借りるならば)著しくかつ直接に国益を害する虞があることすなわち公共の福祉に反するものであることは、確定されないことに

帰着する。よつて控訴人主張の事由は本件不許可処分を正当とする理由とはなし得ない。