憲法目次Ⅰ

憲法目次Ⅱ

憲法目次Ⅲ

憲法目次Ⅳ

第七条  天皇は、内閣の助言と承認により、国民のために、左の国事に関する行為を行ふ。

 憲法改正、法律、政令及び条約を公布すること。

 国会を召集すること。

 衆議院を解散すること。

 国会議員の総選挙の施行を公示すること。

 国務大臣及び法律の定めるその他の官吏の任免並びに全権委任状及び大使及び公使の信任状を認証すること。

 大赦、特赦、減刑、刑の執行の免除及び復権を認証すること。

 栄典を授与すること。

 批准書及び法律の定めるその他の外交文書を認証すること。

 外国の大使及び公使を接受すること。

 儀式を行ふこと。

 

第八条  皇室に財産を譲り渡し、又は皇室が、財産を譲り受け、若しくは賜与することは、国会の議決に基かなければならない。

 

 

【内閣の助言と承認】

東京高裁昭和29年9月22日

衆議院の解散に関する上奏のときに全閣僚の意見の一致と署名がなく、解散詔書が発布されても、その後これが持回り閣議の方法により追完され、かつ解散詔書の伝達に関し閣議で全員が可決したときは、内閣の助言と承認があつたものと解してよい。

 

【法令の公布】

最大判昭和32年12月28日

法令の公布は、官報による以外の方法でされることを絶対に認めえないとまではいえないが、特に国家がこれに代る他の適当な方法で行うものであることが明らかな場合でない限り、公式令廃止後も通常官報をもつてされると解するのが相当である。

 

最大判昭和33年10月15日

「一般国民において知り得べき状態におかれたとき」とは

法令を官報により公布する場合においては、その法令を掲載した官報が印刷局より全国の各官報販売所に発送され、これを一般希望者がいずれかの官報販売所または印刷局官報課において、閲覧しまたは購読しようとすれば、それをなしえた最初の時点までには遅くとも公布されたものと解すべきである。

 

【衆議院の解散】

東京高判昭和29年9月22日

衆議院の解散は、憲法六九条の場合のみに行われるものではない。

憲法は、いかなる場合に解散を行えるかについて何らの規定も設けておらず、政治的裁量にゆだねられている。

解散権を形式上、天皇に帰属せしめ、政治上の責任を負う内閣の助言と承認のもとにこれを行使せしめるのが、7条の趣旨である。

 

*解散の効力

最判昭和29年4月22日

仮に解散が無効でその後に施行された選挙も法律上効力がないとしても、その選挙において行われた公職選挙法違反罪に刑事責任がないとはいえない。

 

最判昭和29年3月25日

衆議院の解散が無効であつても、解散に基づく選挙は、それ自体非合法な無効な選挙ではない。

 

*解散に対する司法審査

最大判昭和35年6月8日

本件解散無効に関する主要の争点は、本件解散は憲法六九条に該当する場合でないのに単に憲法七条に依拠して行われたが故に無効であるかどうか、本件解散に関しては憲法七条所定の内閣の助言と承認が適法に為されたかどうかの点にあることはあきらかである。

 しかし、現実に行われた衆議院の解散が、その依拠する憲法の条章について適用を誤つたが故に、法律上無効であるかどうか、これを行うにつき憲法上必要とせられる内閣の助言と承認に瑕疵があつたが故に無効であるかどうかのごときことは裁判所の審査権に服しないものと解すべきである。

 日本国憲法は、立法、行政、司法の三権分立の制度を確立し、司法権はすべて裁判所の行うところとし(憲法七六条一項)、また裁判所法は、裁判所は一切の法律上の争訟を裁判するものと規定し(裁判所法三条一項)、これによつて、民事、刑事のみならず行政事件についても、事項を限定せずいわゆる概括的に司法裁判所の管轄に属するものとせられ、さらに憲法は一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを審査決定する権限を裁判所に与えた(憲法八一条)結果、国の立法、行政の行為は、それが法律上の争訟となるかぎり、違憲審査を含めてすべて裁判所の裁判権に服することとなつたのである。

 しかし、わが憲法の三権分立の制度の下においても、司法権の行使についておのずからある限度の制約は免れないのであつて、あらゆる国家行為が無制限に司法審査の対象となるものと即断すべきでない。直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であつても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである。この司法権に対する制約は、結局、三権分立の原理に由来し、当該国家行為の高度の政治性、裁判所の司法機関としての性格、裁判に必然的に随伴する手続上の制約等にかんがみ、特定の明文による規定はないけれども、司法権の憲法上の本質に内在する制約と理解すべきものである。

 衆議院の解散は、衆議院議員をしてその意に反して資格を喪失せしめ、国家最高の機関たる国会の主要な一翼をなす衆議院の機能を一時的とは言え閉止するものであり、さらにこれにつづく総選挙を通じて、新な衆議院、さらに新な内閣成立の機縁を為すものであつて、その国法上の意義は重大であるのみならず、解散は、多くは内閣がその重要な政策、ひいては自己の存続に関して国民の総意を問わんとする場合に行われるものであつてその政治上の意義もまた極めて重大である。すなわち衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であつて、かくのごとき行為について、その法律上の有効無効を審査することは司法裁判所の権限の外にありと解すべきことは既に前段説示するところによつてあきらかである。そして、この理は、本件のごとく、当該衆議院の解散が訴訟の前提問題として主張されている場合においても同様であつて、ひとしく裁判所の審査権の外にありといわなければならない。

 本件の解散が憲法七条に依拠して行われたことは本件において争いのないところであり、政府の見解は、憲法七条によつて、―すなわち憲法六九条に該当する場合でなくとも、―憲法上有効に衆議院の解散を行い得るものであり、本件解散は右憲法七条に依拠し、かつ、内閣の助言と承認により適法に行われたものであるとするにあることはあきらかであつて、裁判所としては、この政府の見解を否定して、本件解散を憲法上無効なものとすることはできないのである。